【為替本日の注目点】米中、貿易戦争へ突入か?

 トランプ大統領が中国への追加関税をさらに50%上乗せする可能性に言及したことで、リスク回避の流れが加速。ドル円は146円を割り込む。ユーロドルは小幅に続落。ユーロ円も160円近辺まで下げる。株式市場では株価の乱高下が続き、ダウは1400ドル程上昇した後、マイナス圏に沈む。債券は続落。長期金利は4.29%台へと、連日の大幅上昇。金は4日ぶりに反発。原油は続落し、引け値で60ドルを割り込む。 ドル/円 145.97 ~ 147.67 ユーロ/ドル 1.0888 ~ 1.0978 ユーロ/円  159.99 ~ 161.20 NYダウ  -320.01 → 37,645.59 GOLD  +16.60 → 2,990.20ドル WTI -1.12  → 59.58ドル 米10年国債 +0.109 → 4.293%  【本日の注目イベント】 日 植田日銀総裁、信託大会で挨拶 米 FOMC議事録(3月18-19日分) 米 バーキン・リッチモンド連銀総裁講演 米 トランプ相互関税、上乗せ税率が発動  中国に対する高関税の発動が秒読み段階になって来ました。  中国商務省は、「トランプ大統領が中国が米国製品に対する34%の報復関税を撤回しない場合、50%の追加関税を課すといった脅しを実行に移した場合、中国は自国の権利を守るために必要な措置を講じる」と表明しました。仮にこの税率が実施されれば、これまでの20%に加え、上記34%と50%が上乗せされ、合計で「104%」の関税が課せられることになります。同省は、「中国に対して関税を引き上げるという脅しは誤りであり、米国の脅迫体質を再び露呈するものだ。米国がその方針を変えなければ、中国は最後まで闘い抜く」と述べ、具体的な措置には触れていません。ただトランプ氏は、「米国に対する報復関税を8日までに撤回しなければ、9日から50%へと引き上げる」と、撤回期限を定めていました。世界第一位と第二位の経済大国である米国と中国が、「貿易戦争」に突入すれば、その影響は両国だけにとどまらず、世界各国に波及することは必至でしょう。  このような事態に金融市場は昨日も混乱しました。ドル円は「リスク回避」が再び強まり、145円台後半までドルが売られ、NY株式市場では朝方には1400ドル高まで反発したダウがその後大きく売られ、320ドル安で取引を終えています。S&P500も節目の「5000ポイント」を割り込んでいます。世界的な景気後退を織り込む格好で、原油価格はこの日も売られ、2021年4月以来となる60ドル割れで引けています。「貿易戦争」に突入すれば、経済活動が鈍化し原油の消費量が減少するとの見立てです。  そんな中、渦中の人物であるイーロン・マスク氏は、トランプ氏が打ち出した新たな関税政策を撤回するようトランプ氏に直訴したようです。それもそのはず、自身が経営するEV自動車メーカーのテスラは中国でも相当な存在感があり、かなりの販売台数を記録しています。中国には製造拠点もあり、「104%」の関税が適用されれば、中国の対抗措置はさらに激化し、テスラにとっては大きな打撃になる可能性があります。テスラはバッテリーのかなりの部分を日本のパナソニックや中国から供給されています。もっとも、最新のデータでは中国におけるテスラの販売台数は急激に減少しており、すでにEVの分野でも中国のBYDに抜かれています。マスク氏の「歯に衣着せぬ発言」や行動に対する批判は米国内でも、販売台数の激減を引き起こしています。マスク氏はさらにホワイトハウスのナバロ上級顧問(貿易・製造担当)に対しても「X」へ、「間抜けだ」と投稿しています。「マスク氏は自動車製造業者ではなく自動車組み立て業者だ」と発言したナバロ氏を批判しています。間もなく、政権中枢からは外れると見られ、本人もそれを自覚しているせいか、尻に火のついた本業の立て直しが急務ということなのかもしれません。  7日夜の石破・トランプ会談を受けて、今後の日本に対する関税政策については赤石経済財政・再生大臣とベッセント財務長官が交渉することになりましたが、その交渉のカードに「為替」が急浮上してきました。米国にとって、関税以外に貿易赤字を減らす手立てはそうはなく、為替を円高方向に誘導すれば、日本からの輸出が減少すると考えるのは、ある意味合理的です。ただ、その手段は簡単ではありません。最も効果的なのは「日米の協調介入」です。2023年、24年に円安が大きく進んだ際には、政府・日銀が「単独介入」を実施し、ドル円の水準を5円ほど円高方向に持って行ったことは記憶に新しいところです。また、その効果も長い眼で見れば限定的だったことも記憶にあります。  これを単独ではなく日米で協調して行えば、その効果はかなりのものが予想されます。ただ、それでも一日当たり7兆5000億ドル(約1095兆円)規模の取引が行われている外国為替市場では、その効果の持続性には疑問符が付きます。また、ドル安が進めば進むほど、米国内の輸入物価を押し上げ、そもそも「トランプ関税」の実施でインフレ再燃懸念が予想される中、物価高がさらに加速する危険性も考えられ、そう簡単でもなさそうです。もう一方で考えられるのが、日米金利差が大幅に縮小すれば、理論的にはドルが売られ円高方向に振れることです。しかし、こちらも「トランプ関税」で金融市場が大きく混乱している中、日銀の追加利上げ観測にも急ブレイキがかかっています。今、このタイミングで利上げに踏み切れば、株価がさらに下げ、国民の消費行動にも大きな影響を与えることから、個人的には、日銀は動けないと考えます。最大でも、日米通貨当局者が「足元の為替は円安すぎる」と歩調を合わせることくらいかと思いますが、それでもこの種の発言があれば、10円程は円高方向に振れる可能性はあるかもしれません。  今朝の情報では、中国のナンバー2の李強首相が、「トランプ政権が9日に相互関税を適用した際の悪影響が及ぼす外的ショックを、『完全に相殺できる』十分な政策手段が中国にはある」と述べているそうです。  本日は15時15分に植田日銀総裁が、信託銀行の100回大会で挨拶します。トランプ関税による影響と、利上げに関する発言に注目です。本日のドル円は144円~147円程度でしょうか。 (執筆者:佐藤正和・外為オンライン 編集担当:サーチナ)(イメージ写真提供:123RF)
トランプ大統領が中国への追加関税をさらに50%上乗せする可能性に言及したことで、リスク回避の流れが加速。(イメージ写真提供:123RF)
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2025-04-09 11:00