トランプ関税の株価急落に慌てず冷静に影響の確認を=One/フィデリティ・ブルーチップ・グロース株式ファンドの運用戦略を聞く

 米トランプ大統領が打ち出した大規模な関税政策が世界の株式市場を動揺させた。すべての国に一律10%の関税を課すほか、自動車や鉄鋼、アルミニウムには25%、そして、国によっては報復関税を表明した中国には100%を超す関税率など歴史的に類を見ないような大規模な関税政策になっている。この政策によってグローバル・サプライチェーンの再編は必至であり、米国に貿易で関わりのある企業には大きなコスト負担が強いられる。アクティブファンドの運用者は、現状をどのように受け止め、投資戦略を見直しているのか? 「One/フィデリティ・ブルーチップ・グロース株式ファンド」を設定するアセットマネジメントOneのマルチマネジャー株式部のファンドマネジャー高野大樹氏(写真:右)と、同ファンドの実質的な運用者である米国フィデリティ・インベスメンツのインスティテューショナル・ポートフォリオマネジャーのトム・ロリンズ氏(写真:左)に聞いた。    ――米トランプ政権の関税政策の影響で、米国をはじめ世界の株式市場が急落しました。「One/フィデリティ・ブルーチップ・グロース株式ファンド」は2023年12月の設定から1年以上経過し、純資産残高は決算頻度の異なる3つのファンド合計で1100億円程度に拡大した人気ファンドでもあるだけに、株価急落には心配されているのではないでしょうか? 貴社に直接問い合わせなどはありませんか? 高野 関税策の大枠が判明した4月3日くらいから、臨時レポートや販売会社向けの会議等を開催し、適切な情報提供に努めています。まずは、マーケット全体の方向性についての考え方をお伝えすることに重点を置きました。その後、個別のファンドごとに情報発信を行い当ファンドでもファンド通信というレポートをホームページに掲載しました。  ――お客様の資金のフローは安定していますか? 当ファンドのように利益が乗っているファンドは、利益確定の解約が増えていませんか? 高野 資金移動の動きは、もう少し期間を経ないと何とも言い難く、その動向を見極めようとしているところです。私どものコールセンターで受ける電話相談件数は、通常1日あたり20件程度ですが、最近は40~50件に増えています。全てが関税問題に起因する問い合わせというわけではありませんが受電件数は増加しています。ただ、パニック状態ではないと考えています。2024年8月の株価急落時にも1週間にわたり日々40~50件の問い合わせがありました。当時と比較してもお客様は落ち着いておられると思います。  ――運用について伺います。このファンドはポートフォリオの上位に、「マグニフィセント・セブン(M7)」といわれる米国の大手ハイテク株を保有しています。「M7」は昨年来、割高が指摘され、今年になって「M7」の株価が下落しました。今回、「関税ショック」といえるほどに株価が大きく下げましたが、この下落によって運用の変更等があれば教えてください。 ロリンズ まず、前提として当ファンドは長期に成長する銘柄を選んで投資しています。ポートフォリオの回転率は20%程度で、投資銘柄の平均保有期間は5年です。今回、確かに短期間に大きな下落を経験していますが、そのことをきっかけにポートフォリオを大胆に入れ替えたということはありません。  また、私たちの運用チームは「M7」をひとかたまりではみていません。個別に1社ごとに調査して評価しています。「M7」といわれても、銘柄ごとにバリュエーションのステージが異なり、人工知能(AI)を活用できる領域やAIによる利益もそれぞれで全く違います。「M7」はAIの発展とAIツールの普及に非常に重要な存在ですが、各社はAIエコシステム内で異なる役割を果たしています。基本的にはAIを活用して利益を出す銘柄が多いのですが、AI普及によりビジネスが縮小する銘柄もあると思います。  ポートフォリオの8割ほどは「セキュラーグロース(何年もの間ずっと成長し続ける。たとえば、スマートフォンやインターネットのように、長い間人々の生活に必要不可欠であり続けるもの)」というエリアから構成されています。これは景気サイクルの好況・不況を超えて付き合っていくタイプの銘柄です。  ポートフォリオの大きな枠組みに変化はありませんが、ややディフェンシブ方向にポートフォリオを持っていったのは事実です。例えば、生活必需品セクター、エネルギー企業、ヘルスケアなどディフェンシブ銘柄の一角を組み入れました。  ――トランプ政権の政策は、ファンドにとってプラスですか? ロリンズ トランプ大統領の政策がブルーチップ・グロース戦略にとって追い風か逆風かについては、まだ不明です。現在、投資先企業とも話していますが、関税がコストに与える真の影響はまだ分かりません。関税は輸入額や輸入元によって企業や産業に異なる影響を与えます。歴史的に見ると、大企業は中小企業よりも高い利益率を持つため、関税による追加コストを吸収しやすいということはいえます。しかし、中小企業は輸入ニーズが少なく国内市場に重点を置いているため、その影響は相殺される可能性があります。  忘れてはならないのは、トランプ大統領は、基本的に高いボールを投げて、落としどころはもっと低く持っていくのが彼の交渉手段です。2018年の米中の貿易戦争の頃のことを思い出すと、今投げられている関税率50%とか100%とかの高すぎるボールがむしろ一番高いぐらいのところなのではないかと思います。これから、各国との交渉が始まって具体的な姿が分かってきます。それを先回りしていたずらに悲観になることはありません。  関税の短期的な影響は、否定できないマイナスですが、トランプ政権の取り組みとして、たとえば、行政の効率化は重要で、彼は効率化とAI投資を推進していることはほぼ間違いないと思います。トランプ氏を冷静に評価すると、ポジティブな面とネガティブな面の両方が見えてきます。足元の状況だけで良し悪しを判断すべきではないと考えます。  ――市場が反転するきっかけは? ロリンズ 重要なのは、4月上旬の株価急落はセンチメントが先走っている状態ということです。まずは冷静に、ハードデータとしてどれぐらいの影響が出るのかを確認する必要があります。そのためには、決算や経営陣の話を聞くことが重要です。ポイントは価格転嫁能力です。輸入品コストの上昇は確実だと仮定するならば、それを価格に転嫁できるかどうかが重要です。関税政策の影響が、より明瞭になれば、市場は冷静にその影響を評価するでしょう。  もう1点が、お金が消えるわけではないということです。関税というのは、政府がお金をとるのですけど、それが無くなるわけではなく、回り回って刺激策に代わるということがあります。今の時点では先々の話は出てきませんが、例えば、法人減税が出るとか、規制緩和などの発表があるかもしれません。または、実体経済への影響が確からしいものになればなるほど、FRBによる利下げの発表が反転のきっかけになるということもあるでしょう。  確かなことが言える段階ではありません。4月の中旬から始まる決算発表において、企業の状態を確認し、経営者のコメントを聞くところから事態を把握していきたいと考えています。  ――投資家へのメッセージは? 高野 私たちは、日本の投資家の皆様に長期にわたって保有していただける投資戦略を提供する為に、世界中の運用会社と年間100件を超えるインタビューを行い、定量的・定性的な評価を通じて、投資戦略を選定しています。フィデリティ投信と共に設定した「One/フィデリティ・ブルーチップ・グロース株式ファンド」と同一の運用戦略は米国で長期にわたって優れたパフォーマンスを上げており、運用の一貫性やパフォーマンスの再現性も非常に高く評価しています。当社は、数百あるファンドの中からこのファンドを「自信を持ってお勧めできるファンド」の1本と位置付けています。  このファンドの同一運用戦略は1987年から運用実績があり、現在までにドットコムバブル、リーマンショック、コロナショックなど、様々な金融市場の急落局面を経験してきました。こうしたショック時には、短期的には基準価額が大きく下がる場面もありましたが、3年から5年という中長期の期間で見ますと、非常に安定的に優れたパフォーマンスを継続的にあげています。このファンドが安定したパフォーマンスを出しているのは、長期、中期、短期と複数の時間軸で投資機会を捉える、時間の分散を図っているからです。  また、将来の市場を展望したうえで、現在の優良企業、ブルーチップ企業だけでなく、将来マイクロソフトやエヌビディアとなり得る将来の優良企業まで幅広く投資を行う、収益獲得機会の分散を図っているからこそ、中長期にわたって優れたパフォーマンスを出せると思います。 ロリンズ フィデリティの運用チームはプライベート・エクイティ投資として未上場企業にも投資させて頂いていますので、そういった新興企業からさまざまな情報が入ってきます。高成長のグローバル銘柄をいち早くピックアップできているのが特徴です。エヌビディアやテスラを今日保有しているファンドは数多くありますが、フィデリティの米国籍の同戦略ファンドのように15年前から保有しているファンドはそう多くはないと思います。  現ポートフォリオ・マネジャーのソヌ・カルラが担当し始めた2009年7月から2024年12月までの5年間のローリングリターンを月次計測した場合、たとえフィー控除後ベースでも、ラッセル1000グロース指数を91%の確率でアウトパフォームしていました(米国籍ファンドの、特定のシェアクラスのパフォーマンスを計測)。ここで申し上げたいのは、短期的にアンダーパフォームすることもありますが、中長期的にはアウトパフォームしてきた実績があるという点です。この結果は、高野さんがおっしゃった「優れた長期投資戦略」を裏付けるものだと思います。不安定な株式市場が続き不透明な時代だからこそ、3年から5年という目線で成長し続ける企業にしっかり投資をする「One/フィデリティ・ブルーチップ・グロース株式ファンド」をご活用いただきたいと思います。
「One/フィデリティ・ブルーチップ・グロース株式ファンド」を設定するアセットマネジメントOneのマルチマネジャー株式部のファンドマネジャー高野大樹氏(写真:右)と、同ファンドの実質的な運用者である米国フィデリティ・インベスメンツのインスティテューショナル・ポートフォリオマネジャーのトム・ロリンズ氏(写真:左)に聞いた。
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2025-04-16 11:00