関税政策に揺れた米国株式市場に変化、FTSE Russellのサイズ別・スタイル別株価指数による分析

 LSEG(ロンドン証券取引所)ジャパンは5月29日、オンラインで「FTSE Russellウェビナー:トランプ政権における米国株式市場 - Russell 米国株インデックスによる市場分析」を開催した。FTSE Russellは、時価総額の大きな上位1000銘柄で構成する米国大型株指数「Russell 1000」や、それ以外の中小型株で構成する「Russell 2000」。また、グロース株で構成する「Russell 1000 Growth」、バリュー株の「Russell 1000 Value」など、米国株式市場を銘柄のサイズやスタイルで区分したわかりやすいインデックスを提供している。4月2日の米「解放の日」に発表された大規模な関税政策が米国のみならず、世界の株式市場を大きく揺るがした。その間、米国の株式市場でどのような変化が起きていたのか? Head of Investment Research,AmericasのMark Barnes氏が解説した。  Barnes氏は、現在のマクロ経済環境として「米国以外のグローバル市場において2025年のインフレ率が2%程度、あるいは、フランスや日本では2%以下に落ちついている中にあって米国では向こう1-3年の期待インフレ率が3%を超える水準に上昇している」と米国のインフレ期待が高止まりし、かつ、向上する見通しにあることを指摘した。しかも、米国の期待インフレ率は1-3年という比較的短い期間のインフレ率が高く、7-10年という長い期間のインフレ率は安定的に推移しているため、1-3年との格差が拡大している。Barnes氏は「期待インフレ率の上昇は米国の関税政策の影響が色濃くでている。一方、米国の労働市場は引き続き堅調な状態を維持しており、米FRBは政策金利を引き下げる理由がなく、今後の金融政策の行方が不透明になっている」とした。なお、米第1四半期(1-3月期)のGDPがマイナス成長になっていることについては、「関税政策に対応して輸入品の在庫が急速に積み上がった影響が大きく、実質的な米国経済の不調を直接示すものではない」という見方を示した。  米国株式市場は2025年になって下落基調になり、特に、4月上旬には関税政策の発表とともに大きく下落した。この米国株式市場について、大型株で構成する「Russell 1000」と中小型株で構成する「Russell 2000」を比較すると、「2024年までは大型株と中小型株の価格変動の動きに大きな違いはなかったが、2025年になると大型株に対して中小型株が明確に劣後する動きになった。4月上旬の急落局面では大型と中小型の別なく一斉に下落したが、その後の戻り局面では大型株の戻る勢いの方が強い」とした。  また、スタイルインデックスといわれる「グロース」と「バリュー」のインデックスの推移からは、「2024年末までは明らかに『グロース』が市場をけん引してきた。これは『生成AI』に象徴される新しい産業の成長期待が強かったといえる。ところが、2025年になると『グロース』に代わって『バリュー』が優位となり、特に『大型バリュー』が良い成績になった。これは、生成AIの分野において中国のDeepSeekが注目されて米国企業の優位性についての楽観視が後退したこと、また、関税策が注目され始めたことでAIよりも関税に市場の関心が移ったためと考えられる」とみていた。  一方、4月上旬の株価急落後の戻り場面では、「大型グロース」が戻り相場をけん引していることが確認された。また、規模別でも「トップ10」の超大型株が先行して戻っている様子もみられた。Barnes氏は、「4月の関税発表後の市場は、過去に見られなかったほどに短期間に大きな価格変動を経験したが、そのような過剰な反応は収まりつつあり、市場に冷静さが戻ってきつつあるようだ。今後の展開は、関税策がどのように決着するのか、また、関税の影響が企業収益にどのような影響をおよぼすものかを確認することが必要だ」と語っていた。また、株式市場は落ち着きを取り戻しつつあるものの、「為替市場においては、ドル安のトレンドは続いている。特に、ユーロに対するドルの弱さは明確になってきている。この傾向がどこまで続くのかも注目していきたい」とした。  なお、FTSE Russellはインデックスの構成銘柄について毎年6月の第4金曜日に入れ替えを実施している。同社のインデックスを使って運用されている資産の残高は、近年のインデックスファンドブームの追い風もあって10.6兆米ドル(2024年6月末時点)に拡大している。「大型」「中小型」、また、「グロース」「バリュー」などの区分けの違いによって大きな資金が動く可能性があるだけに、その変更に毎年注目が集まっている。2026年からは、これまでの年1回の変更から、6月と11月の年2回変更になることを発表している。同社では1984年に指数を発表した当初は3カ月ごとに構成銘柄の内容を見直して変更していたが、1987年に年2回に変更。1989年から年1回の変更に改めて実施してきた。今回、市場のダイナミックな変化を的確に反映したインデックスが望ましいという投資家の意向を踏まえて年2回の変更に戻す決定をした。
LSEGジャパンは5月29日、オンラインで「FTSE Russellウェビナー:トランプ政権における米国株式市場 - Russell 米国株インデックスによる市場分析」を開催した。
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2025-05-29 15:45