多国籍で言葉の壁がない体制で資産運用の新しい常識をつくる、アモーヴァ・アセットマネジメントが始動

 日本の投資信託市場の黎明(れいめい)期から国内投資信託市場のリーディングカンパニーの一角であった日興アセットマネジメント(創業時の社名は日興證券投資信託委託)が9月1日、社名変更し、「アモーヴァ・アセットマネジメント(Amova Asset Management)」として歩み始めることになる。同社代表取締役社長兼CEOのステファニー・ドゥルーズ氏(写真)に、社名変更の狙いと今後の成長戦略について聞いた。  ――新社名「アモーヴァ・アセットマネジメント」は、AM=アセットマネジメント、mov=Movement、そして、ova=Nova(ラテン語でイノベーションの語源)を組み合わせた造語と説明されていますが、改めて、新社名に込めた会社がめざす運用会社像について教えてください。  ここ数十年間で当社は大きく変わってきています。国内外の個人投資家・機関投資家のお客様に幅広く事業展開し、顧客基盤は大きく広がりました。ETFも提供しています。運用力の面でも社内に多くのアクティブ運用とパッシブ運用の両方のファンドマネジャーを擁し、グローバルなビジネス基盤も広がっています。社内では、すべてのコミュニケーションをバイリンガルで行い、人工知能(AI)を使った同時通訳などを使ってさまざまなアイデアを世界のどこからでも共有できるようにしています。あらゆる点でイノベーティブです。  社名は私たちの会社を体現できるものにしたいと考えました。この社名変更への取り組みは社員主導で進め、プロジェクトには175名の社員がかかわりました。「会社は自分たちにとって何なのか?」、「社名に何を込めたいのか?」について世界中で議論を重ね、それをいくつかのポイントに集約しました。  1つは、「未来志向」です。私たちは「前を向く会社」であるという強い意志があります。そこで、「ムーブメント」という概念を入れたいと考えました。そして、あらゆる意味でイノベーティブなので、社名にも「イノベーション」という言葉も入れようとなり、ラテン語の「Nova」を取り入れました。また、アセットマネジメント(AM)業界でやっていくという自負も示したかったので、「AM」を社名の先頭に持っていきたいと考えました。これらを1つにしたのが「Amova」という社名です。  この社名変更のプロセスが非常に重要だと考えています。「Amova」という造語が意味を持つのは、本当にその会社の姿を表していると広く認知された時だと思います。私は、新社名は本当に当社の現状をよく表していると感じていて、たいへん誇りに思っています。  ――社名変更を控えてMission(使命)・Principles(原則)・Values(行動基準)を刷新しました。Missionとして「先進的投資ソリューションでより良い明日を共創する」を掲げています。「共創する」とは、誰とともに創造するのでしょうか?  英語版では「with a Stakeholders」となっていて、ステークホルダーと一緒に創造するという表現になっていますが、日本語ではそれを「共創」と表現しています。ミッションステートメントにインクルーシブ(包括的)な表現は非常に珍しいと思います。海外企業のミッションステートメントではほぼ見ない表現です。ここに日本の企業である私どもの特徴があります。マルチ・ステークホルダー型の経営を行なっており、それは大きな差別化要因になると思っています。多くの関係者を意識してものごとを進めると、意思決定に多くの時間が必要になりますが、いったん足並みがそろうと、強く速く進めることができます。  お客さま、社員、コミュニティ、株主といった一般的な企業のステークホルダーはもちろん、「資産運用立国」という政策・コンセプトや当社が属する資産運用業界といったものも、そして、環境保全といった社会的な課題も重要なステークホルダーだと考えています。私たちは、そこにインクルーシブで、かつ、ポジティブなエコシステムを作って貢献していきたいと考えています。お客さまは極めて重要なステークホルダーです。ただ、お客様だけを見て進めても正しいエコシステムを作れないと思います。非常に幅広い概念でステークホルダーを考えています。  たとえば、当社では社員が出張する際、その申請時にカーボンフットプリント(製品やサービスのライフサイクル全体から排出される温室効果ガスの量をCO2換算した値)を算出しています。たとえば、航空機の夜の便と昼の便ではカーボンフットプリントが変わってきますので、それができるだけより低くなるようにします。実際に行動を変えることによって排出炭素の削減を図っています。当社の行動がマルチ・ステークホルダーの考えにかなうことを目指しており、それがよりよいビジネスにつながると思っています。  ――Missionで「先進的な投資ソリューション」を掲げていますが、アモーヴァ・アセットは革新的なファンドを出し続ける意向でしょうか?   イノベーションは、私たちのDNAの一部です。お客さまに正しいインパクトをもたらすイノベーションが大事だと思っています。たとえば、国内の個人投資家向け事業では投信販売チャネルごとに社内体制を整理し直しています。地方銀行や信用金庫、証券会社や大手銀行、ネット証券など多様な販売チャネルがありますが、それぞれのチャネルのお客さまには異なる商品ニーズがありますので、それぞれのニーズに合わせた商品を提供していきたいと考えています。  イノベーションは、差別化要素になると考えています。たとえば、「Tracers(トレイサーズ)」というブランドで展開している、ネット専用の低コスト・ノーロードファンドシリーズでは、「S&P500」と金(ゴールド)を併せ持ったり、先物を活用してエクスポージャーを実質的に2倍にするなど、単純なインデックスファンドではない、ルール通りに運用(トレース)するファンドを提供しています。  当社がご提供するアクティブ運用ファンドには、自社(インハウス)の投資運用チームが運用する戦略、当社が戦略的パートナーシップを結ぶパートナー会社の運用力を活用する戦略、その他外部のサードパーティに運用を委託する戦略などがあります。インハウス運用でも、国内の他の運用会社とはかなり体制が異なります。グローバル株式チームはスコットランドのエジンバラに拠点があります。グローバル債券チームは英国ロンドンに、アジア株式・債券などの運用チームはシンガポールと香港に拠点があり、また、ニュージーランドにも運用拠点があります。いろいろな運用ケーパビリティ(能力)を持ち寄って、ユニークな商品を提供しようとしています。  戦略的パートナーシップを結ぶパートナー会社としては、米国のアーク・インベストメント・マネジメントなどがあります。最新のパートナーシップ締結先はフランスのプライベートアセット運用に強みを持つ運用会社であるティケオー・キャピタルです。ティケオー社とは昨年12月、シンガポールに合弁会社(JV)を設立しました。ここではティケオー社が欧州で展開する脱炭素やプライベート・デットなどの既存商品のアジア版を作ろうとしています。日本を含むアジアのインフラ投資やプライベート・デット戦略を提供していきたいと考えています。常に最先端の商品を提供していきたいと考えています。  ――フルサービスでさまざまな機関投資家や販売会社に商品を提供していけば、同じグループの三井住友トラスト・アセットマネジメントと競合することになりませんか?  お互いのことはよく理解しています。両社の強みや経営戦略はかなり異なります。もちろん競合する領域がまったくないわけではありませんが、健全な競争ができています。  当社はETF(上場投資信託)においても、日本を含むアジアで最大手の一角であり、シンガポールではナンバーワンのETF提供者です。東証におけるアクティブ運用型ETF市場において初めてとなる独自のルールに基づいて運用するルールベースのETFを提供するなど、この分野でもイノベーティブな商品を提供しています。1つの商品を画一的にすべての販売チャネルにご提供するのではなく、チャネルごとにそれぞれのお客さまのニーズに合致したイノベーションを提供していきます。  ――会社案内では、「13の国・地域でビジネスをし、25以上の国籍を持つ960人超の社員がワンチームとして働いていて、約半数の社員が『ノンジャパニーズ』」と紹介するなど、国内の運用会社の中では非常にユニークな会社ですが、この経営体制を今後、どのように発展させる考えですか?   重視しているのは、言語の壁がまったくなくなる体制です。そして、完全なデジタル化を図り、情報を共有しやすい仕組みをつくっています。  言語については、AI技術も活用して、たとえば、メールを英語で書いても日本語が得意な相手には日本語で送られるなどの工夫を施しています。社内のあらゆる文書は日・英両言語で作成・管理しています。また、デジタル化によって全地域と情報やアイデアを共有できます。最新の投資アイデアを世界のどこからでも引っ張り出すことができます。一番進んでいる地域やオフィスからアイデアを持ってきて、そこから学ぶことができます。  約10年前からグローバル共通の人事制度を運用しています。日本でも、シンガポールでも、ロンドンでも同じKPI、同じシステムをベースにしています。言語の壁を取り払い、デジタル化で情報格差をなくし、グローバルで統一された人事システムという3つの要素がそろっていることで、人材ありきで、どの地域からでも採用できます。オープンでイノベーティブな環境で働きたいと考える人が多く集まってきます。私たちのイノベーションは、この仕組みから生まれると思っています。もっと多くの外国人を採用したいとか、日本語と英語の両方できる人を採用したいという会社は多いのですが、言葉の壁がない仕組みを作れば外国人も日本人も関係ありません。  ――そのような人事システムは日本ではあまり聞いたことがありませんが、欧州などでは当たり前なのですか?  日本ではユニークな取り組みだと思います。私たちは、ボトムアップとトップダウン、両方のアプローチを合わせたシステムを採用しているという点でもユニークです。すべてを社員主導で行い、経営陣はそれをサポートするという立場でマネジメントしています。海外ではデジタル化、AIの導入している会社は多いのですが、言葉の壁を取り払うことに当社ほど注力している会社はあまりないと思います。当社はその点でユニークです。  ――現在の運用資産残高は約37兆円です。グローバルなトップクラスの運用会社は1兆ドル(約150兆円)の残高ですが、そこと肩を並べるように一段と大きな規模をめざすのでしょうか? 一方、イノベーティブな商品は一般に広く受け入れられて残高を大きくすることが難しい分野だと思いますが、運用資産残高(AUM)の考え方は?  イノベーティブな商品でも、必ずしも残高を大きくすることが難しいとは思いません。たとえば、当社が運用する「グローバル・ロボティクス株式ファンド」は、シリーズ合計で1兆円を超える残高があります。AUMについては2022年当時に29兆円の残高を10年計画で倍増させる計画を立てました。この計画は、現在進行中です。  当社のグローバル成長戦略は、大きく2つのアプローチに分けられます。1つはオーガニック(自律的)成長で、インハウスの商品の残高を伸ばしていきます。もう1つがイン・オーガニック(非自律的)成長で、戦略パートナーシップを増強し、JVや買収によって残高を拡大する戦略です。当社はすでに6つの有力運用会社と戦略的パートナーシップを結んでおり、当社のビジネスに深く組み込まれています。マレーシアではAHAM(アハム)アセットマネジメント、中国では融通(ロントン)基金管理、オーストラリアのヤラ・キャピタル、アメリカのアーク・インベストメント、そして、ロンドンのサステナブル運用に優れたオズモシス、フランスのプライベートアセット会社で上場もしているティケオーです。  今年7月には、シンガポールのフィンテックのチョコレートファイナンスという会社に出資しました。このようなパートナーシップは、イン・オーガニック成長として当社の成長の一方のエンジンとして注力していきます。ただ、やみくもに出資や買収によってAUMを大きくしたいとは考えていません。正しい商品を幅広い販売チャネルを通じ適切に販売して、クオリティの高いAUMを積み上げたいと考えています。  イン・オーガニック(非自律的)成長分野では現在、ETFビジネスでパートナーを探しています。当社はETFを日本とシンガポールで大規模に展開していますが、もっとグローバルに拡大したいと考えています。そして、アジア、欧州、米国での新しい提携先の獲得をめざしています。  ――新NISAが始まるなど「資産運用立国」をめざして国内の資産運用業は活性化しているように感じられますが、国内の資産運用環境を、どのように見ていますか? 国内の投資家にとって「アモーヴァ・アセット」はどのような存在の運用会社でありたいと考えていますが?   日本で「貯蓄から投資へ」の動きは大成功していると思います。他の国も日本から学ぶべきです。実際に、ある欧州の大使館関係者は、どうすれば日本の成功をまねられるかということを真剣に議論していました。英国のISAは、日本のNISAのモデルになった制度ですが、日本のNISA制度は既に残高で英国を追い抜いています。これまでに日本があげた成果は目覚ましいものだと思います。  ただ、これから一段と市場が拡大していくには、いくつかの課題があるとも思っています。まず、現在多くの投資家が米国への投資に目を向けていますが、より国際分散を図る方が良いと思います。投資の環境は脆弱(ぜいじゃく)で複雑です。もっとグローバルなアプローチが大事だと思います。通貨も複数に分散すべきです。また、日本の株式への投資をもっと積極的に考えた方が良いと思っています。  日本では、コーポレートガバナンスコード、スチュワードシップコード、そして、東証改革の3つのおかげで、「日本株」そのものが大きく変わりました。12カ月先の予想PERを日米で比較すると、足元では日本は15倍程度で25倍近い米国に比べて割安です。日本は戦略的に長期の投資先として重要な存在です。  当社は、引き続き革新的な商品開発について知恵を絞っていますが、その中では、より保守的なマルチアセット商品や債券を投資対象とした商品なども検討しています。日本の投資家の方々がもっと幅広く投資できる選択肢をご提供すべきと考えているからです。NISAだけでなく、NISA枠以外の投資枠も使ってより幅の広い投資が根付くように日本の資産運用市場に貢献していきたいと考えています。  本年9月1日に社名は変わりますが、私たちがそれによって何か変わるということはありません。社名の方を、私たちの今ある姿にふさわしいものに変えるだけです。一日も早く新しい社名を多くの方々に覚えていただけますように、これまでにまして質の高い商品やサービスの提供に努めてまいります。
新社名「アモーヴァ・アセットマネジメント」代表取締役社長兼CEOのステファニー・ドゥルーズ氏(写真)に、社名変更の狙いと今後の成長戦略について聞いた。
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2025-08-27 12:15