フィデリティ、世界のアナリストが予測する「企業格差拡大」の時代

 フィデリティ投信は、フィデリティ・ワールドワイド・インベストメントに所属するアナリストの中から、グローバル・マーケットをカバーする120名以上を対象に調査した結果を「フィデリティ・アナリスト・サーベイ 2014-“攻めの姿勢”復活、ファンダメンタルズへの回帰-」というレポートにまとめ2014年4月25日に公表している。レポートから見えてきた2014年の企業動向と、そこから考えられる投資戦略について、フィデリティ投信のインベストメント ディレクター、福田理弘氏(写真)に聞いた。 ――「フィデリティ・アナリスト・サーベイ 2014」のポイントは?  世界の企業経営者の多くは、今後について「慎重ながらも楽観的」という見方をしています。リーマンショック後2-3年の間は、多くの経営者が守りの姿勢を鮮明にし、その後、徐々に前向きな姿勢に転じてきていましたが、今回、2014年1月に世界各地域のアナリストに行った調査結果では、これまでより一歩踏み込んで前向きな姿勢が見えてきました。  米国で始まったテーパリング(量的金融緩和からの離脱策)を乗り越えて、米国景気が腰折れすることはないだろうという確信が高まってきていることが「楽観」の背景にあると思います。2013年までは米国経済の先行きに半信半疑だったところがあったのですが、今年になって、「大丈夫そうだ」という見方が強まっています。  ただ、「慎重ながら」と前置きしているのは、テーパリングが新興国にはマイナスに作用すること、さらに、中国経済の成長鈍化が注意点として意識されているのです。中国については、不動産バブル、理財商品の問題や環境問題など様々な問題が表面化し、年率8%を超えていた高成長に戻ることは期待しづらくなっています。また、中国経済の減速は資源、コモディティ価格の下落に結びつき、新興国には概ねマイナスの影響として響きます。 ――レポートでは、「ファンダメンタルズは新興国よりも先進国の方が良い」としていますが、その中で、日本についての見方は?  経済成長率の絶対値では新興国にも高い国はあるのですが、成長率の変化率で評価すると、2014年は先進国が優位だということです。米国は、テーパリングを乗り越えて成長が期待されるほどにしっかりしています。日本は米国よりも回復のステージが遅れている分、変化率は大きく出ています。また、欧州は昨年に大きく改善しましたが、今年は一段と成長するには力不足と考えられています。  このような見方を総合すると、2014年は変化率で一番目立つのは日本、そして、米国、欧州という順番です。 ――米国の株価は、史上最高を更新するほどに好調ですが、日本の株価は冴えない展開が続いています。今後は、日本の株価にも期待が持てるのですか?  日本の株価が4月に冴えない動きになったことについて、消費増税の影響、アベノミクスの第3の矢への失望感、金融緩和が実行されなかったことへの失望など、さまざまな見方がされていますが、これから徐々に株価のアップサイドリスクが大きくなってくるとみています。  消費増税の影響について、増税前の駆け込み需要の反動などといわれますが、今年の個人消費の動向をよく見ていくと、2月‐3月は、販売数量増よりも販売単価の増大が大きく、株高などの資産効果などによって消費マインドが高まってきていることが見て取れます。4月以降には賃上げ、ボーナスの増額など収入増のプラス効果が出てくると期待されるので、一段と消費が拡大する期待が持てます。  また、本格化している企業の決算発表において、今期の決算見通しを各社が慎重に見ていることも、市場のマインドを冷ます要因になっていますが、消費増税や原材料の高騰など悪材料が重なっている時に、経営者が慎重な見通しで経営することは当たり前です。景気の実態が、予想よりも強いということがはっきりしてくると、市場のムードは一気に好転するのではないでしょうか。 ――レポートでは「勝ち組と負け組の格差は、今後3年-5年で一層拡大する」と見通していますが?  グローバル経済で成長に地域格差が出てきています。また、好調が続いている米国においても、今後、企業間の格差は一層明確になってくるとみています。  米国の循環的な景気回復という局面は終わったと考えられます。たとえば、自動車市場はリーマンショック前に年間1600万台を超えていた新車販売台数が、一時は1000万台割れに落ち込みましたが、それが1600万台近くに戻ってきています。この回復の過程では、どこも揃って良くなってきたのですが、これからは、企業の商品企画力の差など、経営戦略の違いが業績の格差として表れます。  また、日本においても、アベノミクスは「6重苦」といわれた日本の企業を取り巻く苦境を、金融緩和などによって一つひとつ取り除いていく作業だったため、これまでは日本の産業全体に恩恵が及んだのですが、これからの成長戦略になると、恩恵の及ぶ範囲は狭くなり、規制緩和などを業績に取り込む経営力の差なども成長を左右する要素になってくるでしょう。  このような「勝ち組と負け組の格差拡大」というのは、広く世界各地で起こってきます。  一方、今回のサーベイで、今後のポイントとして企業のM&A(買収・合併)が活発化すると見通していますが、そのM&Aについては、規模は小さめのものになるとみています。たとえば、成長が見込まれる分野の技術とか、成長する地域を埋めるなど、企業グループを丸ごと買収するよりも、その一部分を買収するといったM&Aの時代になるでしょう。M&Aでも戦略の優劣が結果に出ると思います。 ――アナリスト・サーベイの結果を運用戦略に活かすと、先進国の株式に投資するアクティブ運用ファンドに魅力が高まるということですか?  今後、金利が上がっていく方向にあるという前提ですので、債券よりも株式投資に優位な市場環境といえます。また、「勝ち組と負け組の格差拡大」ということは、アクティブ運用に優位な展開ということができます。すでに欧米の機関投資家の間では、2013年末の時点で、アクティブ運用ファンドへの資金流入が増えています。  日本でも今年から「JPX日経400」という指標が使われ、ROEで選定銘柄を決定するなど、銘柄選定の考え方がパッシブ運用の世界に入り、年金運用などで活用され始めました。他より優れた銘柄だけで、インデックスをつくるという考え方は、アクティブ運用につながる考え方です。より限られた銘柄で運用するという考え方が、日本の機関投資家の間でも採用され始めたということは、今後の運用市場を見通す上では、ポイントになってくると思っています。(取材・編集担当:徳永浩)
フィデリティ投信は、「フィデリティ・アナリスト・サーベイ 2014-“攻めの姿勢”復活、ファンダメンタルズへの回帰-」というレポートを2014年4月25日に公表している。(写真は、フィデリティ投信のインベストメント ディレクター 福田理弘氏。サーチナ撮影)
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2014-05-02 17:30