日本株は上昇の第2段階に進む=フィデリティ投信が2026年の市場を展望

フィデリティ投信は12月11日、「2026年市場展望-Market outlook for 2026」をテーマにしたメディア・ブリーフィングを開催した。同社取締役副社長で運用本部長の鹿島美由紀氏(写真:左)が日本株式の展望を語り、フィデリティ・インスティテュート主席研究員マクロストラテジストの重見吉徳氏(写真:右)がグローバルマクロの展望を語った。鹿島氏は「緩やかなインフレ環境や企業の構造変化を背景に日本株の相対的な強さが持続する」と国内株式市場に強気の見方を打ち出した。 ◆国内株式の上昇の行方を見定めるチェックポイントは?  鹿島氏は、アベノミクスが3本の矢(「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「民間投資を喚起する成長戦略」)によってデフレ脱却と経済再生をめざして動き出した2012年末からの株価上昇が、東京証券取引所のPBR1倍割れ企業に対する改善要請が出た2023年3月末から一段とギアが上がった「フェーズ2」に入ったと捉えている。そして、2026年を展望して「フェーズ2の上昇は、いつまで、どこまで続くのか?」を考えるポイントを解説した。  チェックポイントの1つは、「名目と実質GDPの両方の伸び率を確認すること」とした。一般的にGDPの伸び率は実質GDPが広く使われているが、鹿島氏はインフレの影響も加えた名目GDPが伸びている時には企業業績が上振れすることが多いと指摘し、「日本の実質GDPは伸びないといわれているが、アベノミクス以降は名目GDPは伸び続けている。直近の企業業績で上方修正が続いているのはインフレによって名目GDPが押し上げられている影響がある」と分析している。「実質GDPが1%しか伸びない低成長の国とみると魅力がないが、3%のインフレがあれば名目GDPは4%伸びている。デフレ期にコスト削減を徹底した日本企業は、売上が増えれば利益に結びつきやすい構造を持っており、それが収益を押し上げることにつながる」と語った。  実際に国内企業の業績は、足元で予想業績の上方修正が相次ぐ好決算となっており。アナリストが予想する12カ月先予想EPS(1株当たり利益)の引き上げが進んでいる。2012年1月1日を起点として12カ月先予想EPSの推移を振り返ると国内株式(TOPIX)は米国(S&P500)を上回る伸び率になっている。2026年度の増益率も2ケタに達するという見方があり、好業績が継続する見通しだ。そして、日本企業の平均ROEは長年6~8%程度で推移してきたが、2026年度には10%、2028年度には11%に達するという予測がある。鹿島氏は「企業の経営改革や資本効率向上への取り組みという内部要因に加え、市場環境の改善といった外部要因も重なり、日本株に対する評価は持続的に上昇する局面にある」とした。  また、「インフレのマネージメントと政府の成長戦略」も重要だとした。「インフレになるとモノが高くなって生活が大変になったと政府に文句を言う声が大きくなる。それに対してモノの値段を抑えるデフレ政策に転じると問題」と指摘したが、「現在の高市政権の経済運営の基本姿勢は、成長力の強化と財政・経済運営の安定を両立させることを重視したもので、日本経済がすでに乗りつつある成長トレンドをさらに補強し、日本株式市場にとって中期的な追い風となる」と評価した。  そして、「コーポレートガバナンスの進展」にも注目する必要があるとした。日本では2014年2月に金融庁による日本版スチュワードシップ・コードの発表があり、2015年6月にコーポレートガバナンス・コードが公表されてから、議論が活発に行われてきた。2023年3月に東証が「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願い」を公表してから特に大きな動きとなった。東証の要請を受けてプライム市場上場企業を中心に、改善計画の策定や情報開示が急速に進み、それが外国人投資家の国内企業再評価のきっかけにもなった。鹿島氏は「2026年はコーポレートガバナンス・コードの再々改訂が予定され、国内企業のガバナンス改革は一段と進展する方向にある」とした。  さらに重要なのは「需給」の問題で、「外国人投資家が日本株の組み入れ比率をインデックスに対してアンダーウエイトにする比率はここ数年で大きく縮小したものの、国内投資家は企業の自社株買い以外に国内株式を購入していない」と指摘した。外国人投資家が一段と日本株に対する見方を強めて買い入れを強化するか、国内の個人投資家らが国内株に積極的に投資する動きが強まることが市場の行方を左右するとした。「これまでは為替の円安の影響もあって海外株式に投資するメリットが大きく感じられた。これからは円安が一段と進むのか見通しが難しくなっている」とし国内株投資へ向かいやすいという。そして、国内のインフレも定着してくると、「いよいよ投資しないと将来に不安を感じる人が増えている。一気に動くというより、ジワジワと投資に踏み出す人が増えていき、それが中期的に国内株式の需要を押し上げる要因となるのではないか」と語った。 ◆グローバルマクロの注目点は?  グローバルマクロ環境について解説した重見氏は、「メインシナリオは、増益率並みの株価上昇が続くという、これまでの延長のような環境。世界の成長率は3%程度で企業業績は15%程度の成長が見込まれており、株価はこの成長率に沿った上昇という流れになるだろう」とし、独特の表現で「面白くない環境が続く」と語った。  ただ、「アップサイドのリスク」として「バブル化」の可能性に言及した。12月の米FOMCで政策金利を0.25%引き下げ、誘導目標を3.50%~3.75%にすることが決まったところだが、「FOMC参加者の2026年末の金利予想で最も低い予測をする人は2.00%~2.25%としている。新しいFRB議長には利下げを求めるトランプ政権の意向をくみ取りやすい人が就任するとみられ、現時点での着地予想の中央値3.4%よりも一段と利下げに動く可能性もある」とした。さらに、金融機関に対する規制について規制緩和の議論が続いていることに注目。「米政権は金融規制をリーマンショック以前の状態に戻そうという意図があり、この規制緩和が実施されるとITバブルのような環境になりかねない」と危惧していた。  一方、ダウンサイドのリスクとしては景気後退による株価調整安のリスクを指摘した。米国の住宅ローンを除く個人ローンの残高はリーマンショック前の水準を超えて史上最高の残高に膨れ上がり、今後、雇用の悪化から家計の信用が悪化するような動きも想定できるとした。また、米国では「ハイパースケーラー」といわれるクラウドサービスを大規模に提供するアマゾン、アルファベット、マイクロソフト、メタによる1兆ドルを超える巨額AI投資計画に注目が高まっているが、「2025年から27年にかけて年率30%を超える投資が実行される見込みになっているが、この投資に期待通りの収益が伴うのか? ITバブルの時には全米に光ファイバーを敷設したインフラ企業が高債務を正当化するために不正な会計操作を行うようなことがあった」とし、巨額なAI投資の果実に注意が怠れないと話した。  重見氏は「Fama-Frenchの5ファクター株式モデル」に言及し、「投資に積極的な企業の株価パフォーマンスは保守的に投資を行う企業群の株価にアンダーパフォームする傾向がある」という研究結果を忘れてはならないとした。ただ、足元の株価の動きでは「ハイパースケーラー」などの株価は市場平均を大きくアウトパフォームしている。投資に積極的な企業の株価が崩れるきっかけとして大きな影響を与えたのは「利上げ」であり、「足もとすぐに利上げという環境にないため、現在の株高が簡単に崩れるということもなさそう」と語っていた。
フィデリティ投信は12月11日、「2026年市場展望」をテーマにしたメディア・ブリーフィングを開催した。(写真左は、フィデリティ投信取締役副社長の鹿島美由紀氏、右はマクロストラテジストの重見吉徳氏)
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2025-12-12 13:45