中国調達:中国の従業員に対する信頼は片想いになっちゃいないか?
誰も知らない中国調達の現実(225)-岩城真
現在の中国と日本、政治的に良い関係とは言い難いが、中国での工場経営は依然として続いている。中国の人件費が上昇すればするほど、ノックダウン生産に代表される単純労働からノウハウの移転を含むコア部品の製造へと取引の中身は変化していく。そのようなトレンドを製造業の(日本)国内空洞化とか、技術の海外流出だとか言って非難するだけの発言ほど無責任な意見はないだろう。
製造業経営者たちは、高けりゃ売れない、あるいは中国の巨大市場を無視する余裕などないといった切迫した理由から、中国工場建設とノウハウの海外移転を進める。もちろん、そのような経営者であっても、自社のノウハウが流出してしまえば元も子もないことを百も承知しているので、重要な工程は信頼できる正社員に従事させるなどの対策をしている。しかし、信頼していた従業員が離職し、競合する中国ローカルへ転職したり、起業したりと、ノウハウは結局流出してしまうのである。すると日本の経営者が一様につぶやく言葉は、「信頼していたのに、裏切られた!」である。今回は、そんな現実に対して筆者なりの見解を述べてみたい。
契約は守られるものと日本人は考えている。「どんなに不平等であっても契約した以上は守られなくてはならない」、それが日本人の発想である。しかし、「不平等な契約は守られない」、というのが筆者の中国ビジネス実体験から学んだことである。ここで問題になるのは、日本側は少しも不平等だと思っていなくても、中国側は大いに不平等と感じていることも多々あるということなのである。
優秀な中国人従業員に、設計や生産技術などの日本のものづくりのミソの詰まったノウハウを教える。ほとんどの場合、彼らは日本人より真剣かつ貪欲に学び短期間でそれらを吸収する。いよいよ一人前になり会社に貢献してもらおうという時期になると、退職してしまうのである。しかも、転職先は競合する中国ローカルなどといった話は数えきれない。日本人は例外なくつぶやくはずだ、「信頼していたのに、裏切られた!」と。
しかし、退職した従業員からすると、確かに教育してもらったことには感謝しているが、スキルをつけ、人材としての価値がアップしたのに、永遠に低賃金で使われるなんてまっぴら御免だ、といったところだろう。日本人は、「誰に教えてもらったと思っているんだ!」と思うだろうが、彼らは、「学んだのは、誰だい?」と思うに違いない。日本人は、一方的に与えたと思っているが、彼らは、能動的に学んだのである、優秀な自分だからこそ、それを吸収できたのだ、と間違いなく考える。完全にすれ違っているのである。
それに加え、日本と中国では、雇用に対する考え方も異なる。日本人の発想のベースは、なんやかんや言っても終身雇用である。そこには、個人のスキルアップと会社の成長が同期しているという幻想が確固として存在しているのである。(少なくとも現在の経営者世代は、現実は違っていても、そうであると信じたいし、そう願っているのである。)
一方、中国人の思考はまったく異なる。中国社会が人材の流動性が高い云々の話は、あえて持ちださない。日系企業の多くは中国に進出したのもここ十数年の話だ、いつ中国人従業員をほっぽり出して日本に逃げ帰らないとも限らない。自分の老板(社長、上司)に限って、そんな無責任な経営はしないと信頼していても、中国という国が政府の一声で何でもアリなことを知っている中国人従業員にとっては、終身雇用といった発想そのものがないのである。そうなると、日系に限らず外資系というものが、中国ローカルと同じ土俵での信頼は得られないのである。
よくよく考えてみれば、日本人だって、日本に進出まもない外資系に勤めるとなると、それに似た不安を抱くのではないだろうか。そのような中国人従業員の側に立った発想なしに、「信頼していたのに、裏切られた!」とつぶやくことは、まさに身勝手な片思いでしかないのである。
もし、このような事象に救いを求めるとしたら、退職した従業員を糾弾し、徹底的に追い詰めるような事件が発生しないことだ。それをやったら、彼らからすれば元恋人のストーカー行為以外の何物でもなくなってしまうのである。(執筆者:岩城真 編集担当:水野陽子)
現在の中国と日本、政治的に良い関係とは言い難いが、中国での工場経営は依然として続いている。中国の人件費が上昇すればするほど、ノックダウン生産に代表される単純労働からノウハウの移転を含むコア部品の製造へと取引の中身は変化していく。そのようなトレンドを製造業の(日本)国内空洞化とか、技術の海外流出だとか言って非難するだけの発言ほど無責任な意見はないだろう。
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2014-05-13 00:45