米国株中心の運用を改めるとき=アライアンス・バーンスタインの村上氏

アライアンス・バーンスタインは2014年5月1日付で、村上尚己氏(写真)をマーケット・ストラテジスト(兼エコノミスト)として迎えた。村上氏は、マネックス証券のチーフ・エコノミストとして個人投資家向けにわかりやすい経済、市場分析を発信して人気を博してきた。村上氏に今後の情報発信に関する活動方針、また、当面のグローバル経済の見通しについて聞いた。
村上氏は、第一生命経済研究所、BNPパリバ証券の経済調査部などを経て、2003年10月にゴールドマンサックス証券に入社し、シニアエコノミストとしてグローバル経済・金利分析・予測を担当。2008年9月からマネックス証券のチーフ・エコノミストだった。
――証券会社の「チーフ・エコノミスト」から、資産運用会社の「マーケット・ストラテジスト」に転じたが、情報発信の内容などが変わるのか?
基本的に発信する情報内容が変わることはない。証券会社の「エコノミスト」は経済指標・政策などがマーケットに対して、どのような影響を与えるのかということについて、個人投資家の方々にわかりやすく伝えることが役割だと考えて務めていた。今回、「マーケット・ストラテジスト」という立場に立って、投資戦略策定をメインに据えて、今後の見通しも含めて伝えていくという役割になった。
アライアンス・バーンスタインという、米国に本拠を置く、世界有数の運用会社(2013年12月末の運用資産総額は約47.3兆円)に所属するので、「マーケット」はグローバル市場を対象とし、株式市場のみならず、債券も為替を含め幅広い市場を分析対象にする。また、情報発信する相手も、前職の証券会社では主に個人投資家が対象だったが、今後は、年金等の機関投資家も含む、全ての投資家ということになる。カバーする範囲が大きく広がることになる。
■投資家に「心のやすらぎ」を提供する情報発信
――運用会社が、投資家に向けた情報発信をする「マーケット・ストラテジスト」を起用するということは、これまでになかったと思う。具体的には、どのような活動をするのか?
運用会社には専門のアナリストやエコノミストがいて、いわゆるハウスビュー(運用会社としての市場の考え方・見通し)をもとに、ファンドの運用に活かしているが、私自身は、このハウスビューを策定するチームに現段階では所属してはいない。業界でも屈指のリサーチ力を持つチームと直接コンタクトをとって、経済・市場分析について議論することができる。
「マーケット・ストラテジスト」として、具体的に何をしていくかというと、投資家の方々が感じている様々な悩みに対して、ストラテジストとしての知見を活かした情報・アイデアを提供すること。お客様の資産運用を幅広くサポートさせて頂きたい。これは、これまでの資産運用ビジネスとして他社にはないサービスになると思うが、新しいチャレンジでもある。
アライアンス・バーンスタインには「peace of mind(心のやすらぎ)」という考え方があって、高度な分析力と専門性の高いリサーチ力を活用してお客様に資産運用の成功と心の安らぎを提供することが付加価値になるという考えを軸に据え、ビジネスを拡大させてきた。
たとえば、先進国では超低金利時代が訪れているが、債券投資による利回り収入を目的に運用している投資家が、より高い運用収益を得たいと考えた時、どのような投資戦略が有効なのか? FRBの政策転換が予想される中で今後の市場分析に基づいて、投資家に対して、高い付加価値を伴うサービスを提供していきたい。
■米国テーパリング下の新興国経済の見方
――当面のグローバル経済の見通しは? 米国のテーパリング(量的金融緩和の縮小策)によって、新興国経済がガタガタになるという見方が一般的だったが、新興国市場は今年1月-3月を底に値上がりしている市場も少なくない。今後の新興国市場は?
昨年12月にテーパリングが決定した段階で、新興国からの投資資金の引き揚げ → 通貨安 → インフレ → 利上げ → 一段の景気後退という悪循環がイメージされ、新興国の通貨安や株安が起きた。ところが、米国のテーパリングについては昨年5月頃からその悪影響が懸念され、新興国の通貨や株式市場などは、ずいぶん下がった。そして、各国の通貨の過去の値動きをみると、短期間に20%を超えて通貨安が進んだが、そうした局面は通貨安が「行き過ぎ」のゾーンに至っていたのではないかとみている。
実際に、新興国経済の悪循環の流れを裏付けるように、トルコや南アフリカが今年1月に通貨安をくい止めるために利上げを余儀なくされたが、そうした政策対応もあって市場は落ち着き新興国売りは加速しなかった。ブラジル、インドネシア、インドなどはインフレも落ち着き、経済に復調の兆しがある。また、メキシコのように、2013年から2014年の3%成長に復調する国もある。
新興国経済については、中国の金融システムリスク深刻化などが起きなければ、概ね経済が安定するフェーズに入ったとみている。新興国の通貨や株価が底入れから反転の兆しを見せていることは、世界の金融市場の今後を見通す上でのヒントにもなると考えている。
■世界的な超金融緩和の転換に備えた資産運用を
――ヒントとは? 今後の見通しは?
一部の新興国株式市場の復調は、「リスクを取りに行ける環境」になっていることを示していると思う。そして、今後を見通すにあたっては、米FRBの金融政策のスタンス変更が、世界のマネーの流れを変えていくということを合わせて考えなければならない。
たとえば、2013年にもっとも投資対象先として良かったのは先進国の株式だったが、今年は昨年同様のパフォーマンスは期待できないだろう。ただ、ここへきて米国債が買われ、10年債利回りが2.5%以下にまで下がった(債券価格は上がった)が、これは市場の悲観論が行き過ぎていると思う。米国の経済指標を丁寧に追っていくと、ここから一段と安全資産である債券を買い進めなければならないほど、米国経済は弱くはない。
米国債券利回りは昨年、約1.6%まで低下したが3%にまでなった。これこそがテーパリング開始を見越した動きだったが、現在一時的に2.5%まで金利が低下しているが、米経済の正常化を背景に米金利は3%台に向かう流れが続いているとみている。
そして、新興国株に復調の兆しがあるのは、従来よりも、より金利が高い資産にマネーが向かい始めていることが影響している可能性がある。こうした市場環境を踏まえ、利回りの高い資産が魅力的な投資先になるのではないか。
すなわち、リーマンショック以降続いてきた世界的な大金融緩和の時代が、今、転換期を迎えている。金融緩和局面においては、最も金融緩和に積極的な米国の株式に投資しておけば間違いはなかったのだが、その米国で金融政策の転換が動き始めた。この変化を考えれば、米国株を中心にした運用ポートフォリオは、再考するタイミングが来ていると言えるだろう。(取材・編集担当:徳永浩)
アライアンス・バーンスタインは2014年5月1日付で、村上尚己氏をマーケット・ストラテジスト(兼エコノミスト)として迎えた。(写真は、アライアンス・バーンスタインのマーケット・ストラテジスト、村上尚己氏。サーチナ撮影)
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2014-05-23 13:00