中国と漢字 <その3> ―現代中国と漢字―

日本経営管理教育協会が見る中国 第308回--高橋孝治(日本経営管理教育協会会員)   ● 同じ漢字でも中国と日本では異なることがある   今まで第284回(2013年12月11日掲載)と第292回(2014年2月5日掲載)で、過去に2回、中国(および中華文化圏)と漢字について見てきた。今回はこのシリーズの最終回として現代中国と漢字を見ていこう。   中国語学習を始めて、日本人なら最初に驚くのが日本と漢字が異なることなのではないだろうか。これは日本の漢字が誤っているわけではなく、中国の漢字の方が時代と共に変化したためだ。日本は中国から漢字を教わってから基本的にそれを守り続けていた(もちろん日本にも簡略化など変化した文字が全くないわけではないが…)。 ● 1950年代に中国で文字改革が行われた   中国の漢字の最も大きな変化は、1950年代初頭に起こった文字改革であろう。現在の中国は日本の漢字とは異なる「簡体字」を用いているが、簡体字を正字として取り扱うことに決めたのが、この1950年代の文字改革であった。実はこの簡体字の採用は中華民国期にも議論がなされた。しかし「中華漢字文化を破壊してはならない」という保守派の意見に押され、中華民国期には改革が頓挫したという過去がある。   ではなぜ中華人民共和国になってこの改革が再びなされることになったのか。一説には社会主義革命の中で古い文化を破壊しようとした動きの一環であるとの見方がある。というのも、1950年代の文字改革では簡体字の採用はあくまでも暫定的措置であり、最終目標は漢字の廃止であったためだ。文字改革では最終的には言葉を全てピンイン(中国語におけるアルファベット式発音記号)で書くことを目標にしていた。なぜそのような改革が必要なのかというと、日本でも平仮名や漢字よりアルファベット表記の方がカッコいいと思う者がいるのと同じことであろう。 ● 古くからの漢字を守っているのは台湾   「中国は偉大な古代文化を誇った国」と中国を褒める者がいる。一方で、「確かに古代中国文化は素晴らしかったが、現中国人民共和国は文化大革命などによって素晴らしい文化を破壊しただけであり、文化を守り続けたのは台湾の方である」と主張する者がいる。筆者はこの後者の意見に賛成する。漢字から見ても、中国は、実は漢字の廃止までを視野に入れており(現在は漢字廃止論はさすがに継続しているとは思えないが…)、結局古代から続いてきた漢字(正字とか繁体字と呼ばれる)を保護してきたのは台湾の方であった。その意味では現中国を漢字発祥の「国」とするのはやや誤りであるように見える(発祥の「地」とするなら正しいであろう)。 ● 「文字獄」とは   最近、中国の言論統制がますます厳しくなっていると言われている。「中国と漢字 <その2>」でも述べたが、文字は他者に同じ情報を共有させるという効果を持つため、一部の為政者にとっては脅威以外の何者でもないのだ。特に中国では文化大革命中にも「文字獄」というものが人々を恐怖に陥れた。(書いた内容が政府に問題視され、投獄や処刑されることを「文字獄」という。「文字」によって「獄」行きになることだ。文化大革命中とは限らず、2010年にノーベル平和賞を受賞した劉暁波の投獄も「文字獄の再来」とする見方もある)。   漢字の廃止を目論み、文字獄を行い、言論統制を強化するなど、現中国にとっても漢字や文字は複雑な状況にある。これからの中国はどのように漢字と付き合うのか。台湾などを見習い、文化の復興のため簡体字を放棄し、大陸でも繁体字を使うことがあるのか(そんなことはあるわけはないが、文化的側面から少しは期待したい)。漢字をヒントに現中国を見てみるのもまた一興である。   写真は上海・華東政法大学の「法」の異体字変化モニュメント(執筆者:高橋孝治・日本経営管理教育協会会員 編集担当:水野陽子)
今まで第284回(2013年12月11日掲載)と第292回(2014年2月5日掲載)で、過去に2回、中国(および中華文化圏)と漢字について見てきた。今回はこのシリーズの最終回として現代中国と漢字を見ていこう。
高橋孝治
2014-05-28 10:45