中国・習近平氏は決められない政治に決別し、負の遺産に向き合えるか?
中国の習近平・李克強政権は、前政権時代の「負の遺産」への対応に真剣に取り組む必要があり、その結果として、中国経済の成長率は鈍化することが避けられない――大和総研経済調査部のシニアエコノミスト、齋藤尚登氏は、2014年6月2日発表したレポート「中国:習近平・李克強政権下で経済政策は変わるのか?」で、中国の当面の経済成長に対して厳しい見通しを披露している。レポートの要旨は以下の通り。
習近平・李克強政権が前政権から引き継いだのは、(1)投資に過度に依存した経済発展パターンの限界、(2)膨張する地方政府債務とシャドーバンキング、(3)深刻化する環境汚染、(4)「国進民退」(国有企業が優遇され、民間企業が蚊帳の外に置かれる)に象徴される経済改革の停滞――といった負の遺産である。
残念ながら、2014年3月の全人代では安定維持が最優先され、諸問題の解決は先送りにされた印象が強い。例えば、国内債務問題のソフトランディングと構造改革推進を加速するのであれば、成長率目標はやや低めの方が好都合であるはずだったが、2014年の成長率目標は7.5%で据え置かれた。足元で消費が減速する中で、引き続き7.5%の成長目標を達成するには、投資に頼らざるを得ない。デフォルト騒ぎでシャドーバンキングを通じた資金仲介が停滞するのであれば、銀行貸出を増やさざるを得ず、バランスシートから外したリスクを再び銀行が負う懸念が高まる。銀行と大型国有企業との密接な関係は、「国進民退」が一段と進むことを示唆する。
本稿のテーマ「習近平・李克強政権下で経済政策は変わるのか?」に対する現時点の答えは「変わっていない」となる。その一方で、習近平氏は、党・国家・軍のトップを兼任し、2013年11月の三中全会で設置が決定された「全面的改革深化指導小グループ」と、「国家安全委員会」のトップにも就任するなど、胡錦濤前総書記とは異なり、権限を集中させている。これは、改革の意思決定と断行力を高め、抵抗勢力(既得権益層)を封じ込めるためなのかもしれない。今はその準備段階であるが故の「まだ」決められない政治が行われている可能性があり、今後の動向に注目したい。
いずれにせよ、いつまでも問題を先送りにして、「無理」をした成長を続けることは困難である。いずれは前政権時代の負の遺産への対応に真剣に取り組んでいく必要があり、その帰結の多くは成長率の鈍化となる。さらに、人口ボーナスは2010年で既にピークとなり、早晩、人口オーナスが経済成長の足枷となることもある。中長期的には、世界経済のエンジンとしての中国の役割は徐々に低下していこう。(情報提供:大和総研、編集担当:徳永浩)
中国の習近平・李克強政権は、前政権時代の「負の遺産」への対応に真剣に取り組む必要があり、その結果として、中国経済の成長率は鈍化することが避けられない。
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2014-06-02 19:30