中国調達:何もかも中国流で進めるのが成功の秘訣ではない
誰も知らない中国調達の現実(226)-岩城真
今まで、このコラムをはじめとして様々な情報発信の場で、中国調達やサプライヤーとの交渉を上手に進める秘訣のようなことを、筆者自身の経験をベースに書き、話してきた。その多くは、中国の流儀やモノの考え方を知り、それをベースに考え、実行する手法である。例えば、中国は即断即決があたりまえである、組織に戻り熟慮して結論をだす日本とは違う。中国に乗り込みビジネスをしようというのである、郷に入れば郷に従えであると考えれば、それは自然なことである。
一方、バイヤー企業とサプライヤーとが対等な関係であるべきだと主張しながら、中国ベースでビジネスを進めろ、というのは、一種の“逆差別”ではないか、と考える読者も多かったのではないだろうか。見方を変えれば、長いものに巻かれる“中国への迎合”ともとられるだろう。今回は、日本企業として、時には自らのペースを貫く必要性とその意味について考えてみたい。
中国のサプライヤーは、見積、試作品製作、出荷までの流れは、驚くほど速い。中身の精緻さは別にして、その速さに日本企業は、まったく追随できない。筆者の経験では、図面を見せて数分後に見積価格が提示されたことがある。筆者の企業向けのカスタム部品の図面だったのだが、日本企業であれば、材料費の見積を材料の購入先に依頼し、見積価格のエビデンスを集めるのが普通である。既述のように“中身の精緻さは別”なのであるが、その速さは舌を巻くほどである。
数分後に見積価格を回答したサプライヤーの総経理は、あたりまえのように、筆者に「価格はどうだ、安いだろう、早く注文してくれ」と迫ってくる。すべてを中国ペースで進めるのであれば、筆者もその場で発注を決めるべきなのだろうが、たいていの場合、あえて踏みとどまる。「材料屋に見積を依頼しろ。あとから予定していた材料が入手できない、予想外に材料費が嵩む…というようなことが理由での値上げは、認めないよ」と対抗している。しかし、こんな有り様だから、試作品が入荷するや否や、検査結果を矢継ぎ早に督促してくる。日本企業の判断のスピード感のなさに筆者も辟易としているが、今回は、あえてマイペースを守るべきだと言いたい。
新たに取引を開始しようという場合、バイヤーはもちろん、取引の成功を望むバイヤー企業全体が“非常態勢”となることがある。それは、それで悪いとはいえないが、そのペースをいつまで続けられるのか?ということを失念してはならないだろう。長期に亘って取引をする前提であれば、中国のサプライヤーにバイヤー企業のペースを理解してもらわなければならない。仮にバイヤー企業のスピード感のなさに嫌気がさすサプライヤーであれば、むしろ早いうちに取引を終了するべきだろう。後戻りできないところまできて、スピード感のなさで、関係がギクシャクすることだけは回避しなくてはならない。
日本企業の場合、BtoB取引は、組織(企業)対組織の取引である、中国企業のように、組織の前に担当者という個人が存在するわけではない。個人の一存で決められないことが多数存在する、その反面決定事項は組織で担保する。決定までのスピード感が異なることは、やむをえないことである。むしろ、そのような日本企業のスピード感や流儀を理解させたうえで、その上限ギリギリのバイヤーのスピード感を、取引に対する熱意として伝えるべきだろう。
中国サプライヤーと初めて取引を開始する日本企業は少なくなっている。ほとんどの企業が中国企業と何らかの取引経験があるといってよいだろう。一方、中国サプライヤーには、日本企業はもちろん、外資系企業との取引経験もない企業が、まだまだたくさんある。日系サプライヤーや沿海部の海外取引経験豊富な中国ローカルサプライヤーから、内陸部の純然たる中国ローカルサプライヤーへと、日本企業の取引先が中国の深部へと拡大しているのが昨今の状況である。人件費や対円人民元の上昇といったコスト面での問題、また、内陸部にも大きな市場が生まれて地産地消の動きから生産も中国内陸部に進出するなど、その事情は様々であるが、新しい出会いと取引が始まっている。これが中国調達の新しい局面である。(執筆者:岩城真 編集担当:水野陽子)
今まで、このコラムをはじめとして様々な情報発信の場で、中国調達やサプライヤーとの交渉を上手に進める秘訣のようなことを、筆者自身の経験をベースに書き、話してきた。その多くは、中国の流儀やモノの考え方を知り、それをベースに考え、実行する手法である。例えば、中国は即断即決があたりまえである、組織に戻り熟慮して結論をだす日本とは違う。中国に乗り込みビジネスをしようというのである、郷に入れば郷に従えであると考えれば、それは自然なことである。
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2014-06-10 10:30