円高方向を意識しつつポジション整理を=外為オンライン・佐藤氏

 アベノミクスの第3の矢である成長戦略の内容が発表されたものの、市場の反応は限定的だった。そんな状況の中で、ドル円相場はやや円高方向に進みつつある。外為オンライン・シニアアナリストの佐藤正和氏に7月相場の動向を伺った。(写真はサーチナ撮影) ――ここにきてやや円高に振れてきましたが、背景には何があるのでしょうか?  2.6%台で安定していた米国の長期金利が、ここにきて一時2.53%まで下落しました。株価もニューヨークダウが1万7000円台の大台を前に一進一退を続けています。1-3月期のGDP成長率の改定値がマイナス2.9%と大幅に下方修正されましたが、市場に大きなインパクトはなかったようです。  一方、国内ではアベノミクス第3の矢に当たる成長戦略の内容が発表されましたが、あらかじめ情報が漏れていたこともあって、サプライズもなく、市場関係者の間ではやや失望感が強かったようです。成長戦略の結果を見ようと、市場の期待が高まっていたものの、このところのボラティリティは5.8%(3か月)程度と、非常に低位で推移しており、市場にはどちらかに向かうエネルギーが溜まっていた状況でした。  そんな中で、テクニカル的にも「200日移動平均線」が為替レートを上から下に割り込み、円が買われてドルが売られているという状況になっています。これまで何度も200日線の割り込みにトライしてきたものの、実現できずにきたのですが、いよいよ下回った格好です。 ――7月の「ドル円相場」のレンジは?  FRBの中でもタカ派と呼ばれるブラード・セントルイス連銀総裁は、先日の講演で米国の利上げは考えられているより早く始まる可能性を示唆しました。一方、イエレンFRB議長はハト派とされていますから、見解が異なっているかもしれません。7月2日のFRBでの発言には注目です。また、7月29日-30日に予定されているFOMC(米連邦公開市場委員会)でも、どんなメッセージが出てくるか注視したいところです。  日本の5月の消費者物価指数(CPI)は、3.4%でした。消費税率の上昇分を差し引くと、1.4%程度の上昇となり、日銀の想定通りの結果でした。これで追加的金融緩和の可能性はさらに遠のくと見られます。  こうした状況を踏まえると、ドル円は、1ドル=100円-103円と予想します。ただ、200日移動平均線が為替レートを大きく割り込んだことで、さらなる下値を模索し始める可能性もあります。とりわけ、100円80銭前後のラインを超えて円高が進んでくると、100円割れも否定できません。  仮に100円割れを実現させてしまうと、98円台まで円高が進む可能性も出てきます。ここまで円高が進むと、年内は円安に戻っても105円台程度がやっとかもしれません。 ――前回のECB理事会で利下げがあった「ユーロ」はどうでしょうか?  ユーロに関しては、利下げに加えてマイナス金利政策まで導入したわけですが、すぐに成果が出て、ユーロが大きく下落、というわけにはいかないようです。やはり、時間がかかるのは仕方がないかもしれません。そもそも現在はドルの全面安で、ユーロもそれに引きずられて高くなっているといえます。  問題は、ウクライナやイラクといった地政学リスクの顕在化ですが、こちらのほうもさほど大きなリスクにはならないのではないか、というのが多くの市場関係者の見方です。ただ、ECBは更なる金融緩和も示唆しており、ドラギECB総裁も「これで終わりではない」と発言しています。景気回復のためには、ユーロ安を推進したいという思惑もあるでしょう。  7月3日にはドラギ総裁の記者会見がありますが、再び「私を信じてほしい」といった発言が出てくるかもしれません。7月のレンジとしては、ユーロドル相場で1ユーロ=1.33ドル-1.38ドル、ユーロ円では1ユーロ=136円-141円とみています。 ――そのほかの「クロス円」はどうでしょうか?  豪ドル、ニュージーランドドル、英国ポンドは、いずれも金利引上げ観測があるという点で共通しています。特にポンドは、住宅価格指数が上昇しており、円に対してもじりじりと上昇傾向にあります。キャメロン首相がEU離脱を示唆する発言をするなど、ポンドのボラティリティは今後も高まる可能性があります。  すでに2回利上げを実施したニュージーランド(NZ)ドルは、スワップポイント狙いの買いが入っており、堅調に推移しています。  豪ドルは、ますます利上げ観測が高まっています。イラク情勢の悪化などで、金や原油価格などの資源価格が上昇していることも追い風です。さらに、中国経済は不良債権問題などを抱えながらも、やや落ち着きを取り戻しつつあります。豪ドル7月のレンジは、1豪ドル=93円-97円というところでしょう。 ――7月のトレードの注意点、ポイントは何でしょうか?  このところ目立つのは、やはりNZドルや豪ドルのスワップポイント狙いの投資が増えつつあることです。長期投資する人なら、スワップポイントの入る通貨に投資してじっと待つのもいいかもしれません。  7月相場のポイントは、テクニカル的にも円高方向を意識しながら、ポジション調整していくことが大切だと思います。現在、ドル円のポジションを抱えている人の多くは、1ドル=105円程度の人が多いはずですから、急激な円高が進んだ時には、どこかで投げさせられるかもしれません。早めの対応を心掛けたほうがいいでしょう。  不安なのは、やはり米国です。長期金利の下落がまだ続くのか、株高の調整はあるのか。特に株価は、今年に入ってからもかなり上昇しており警戒が必要かもしれません。しっかり見極めて対処したいものです。(取材・文責:サーチナ・メディア編集部)
アベノミクスの第3の矢である成長戦略の内容が発表されたものの、市場の反応は限定的だった。そんな状況の中で、ドル円相場はやや円高方向に進みつつある。外為オンライン・シニアアナリストの佐藤正和氏に7月相場の動向を伺った。(写真はサーチナ撮影)
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2014-06-30 13:00