『孔乙己』を読む(十三) 魯迅小説言語拾零(31)

日本語と中国語(414) (64)后来怎么样?   孔乙己が丁(てい)拳人の邸に盗みに入って足を折られたと聞いた主人は,好奇心から    后来怎么样?(それからどうなった?) と、客に聞きます。客の答え:    怎么样?先写服辩,后来是打,打了大半夜,再打折了腿。(どうなったかって?まず詫び状を書かされてさ、それからぶたれた。夜っぴてぶたれて、そのうえ足を折られたんだ。)     なおも、主人と客との問答は続きます。        后来呢?(それから?)    后来打折了腿了。(それから足を折られたのさ。)    打折了怎样呢?(折られて、どうなった?)    怎样?……谁晓得?许是死了?(どうなったかって?……誰が知るもんか。おおかた死んだろうさ。)   好奇心を満たされた、というよりも、もうこれ以上聞いても面白い話は出てきそうにないと思った主人は、またゆっくりと帳面の〆めに戻ります。 (65)温一碗酒   やがて中秋も過ぎ、秋風は日ましに冷たさを増し、冬も近くなります。「私」は日がないちにち火のそばで仕事をしているくせに、それでも綿入れの着物を着ずにはいられなかった。   ある日の午後、たまたま客は一人もいなかったので、私は目をつぶったままじっと腰を下ろしていた。と、不意に    温一碗酒。(一杯温めてくれ。) という声が聞こえた。   小さな低い声だが、聞き慣れた声であった。目をあけて見たが、誰もいない。立ち上がって表の方を見てみると、あの孔乙己がカウンターの下で敷居に向かって座っていた。顔は黒く痩せこけ、見る影もなかった。ぼろぼろの袷(あわせ)を着て、両足をあぐらに組み、下にはむしろを敷いて、それを荒縄で肩に吊(つる)している。   「私」を見ると、孔乙己は重ねて言った。    温一碗酒。(一杯温めてくれ。)     主人も首を伸ばして、    孔乙己吗?你还欠十九个钱呢!(孔乙己かい?まだ19枚貸しが残ってるよ。) と、いきなり「つけ」の催促である。   孔乙己はしょげきった表情で上を見上げて答える。    这……下回还清罢。这一回是现钱,酒要好。(それは……この次にちゃんと払うよ。きょうは現金だ、酒はいいやつをな。)   「酒はいいやつをな」の原文は“酒要好”である。竹内訳は「酒は上酒のほう」、増田訳は「酒は上等のやつをくれ」だが、孔乙己が言っているのは酒のランクではなく、混ぜ物、つまり水を加えてごまかしたりしていないのをということではないだろうか。「いい酒をくれ」とする駒田訳が原意を伝えているように思われる。(執筆者:上野惠司 編集担当:水野陽子)
孔乙己が丁(てい)拳人の邸に盗みに入って足を折られたと聞いた主人は,好奇心から 后来怎么样?(それからどうなった?)と,客に聞きます。
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2014-07-16 08:45