「新型都市化」を目指す中国(2)=関志雄

中国経済新論「中国の経済改革」-関志雄 ― 経済発展と調和の取れた社会の実現に寄与 ― ●新型都市化の方針と目標   これらの問題の解決を目指すべく、「計画」では、今後、「新型都市化」の推進を謳っており、その際の基本方針として次の五つを挙げている。 ① 人間本位、公平な利益分配   人間を都市化の中心とし、人口の移動を合理的に誘導し、秩序よく農村からの移住者の都市化を推し進める。都市基本公共サービスの常住人口全員への提供を推進し、人口の質を高め、人間の全面的発達と社会の公平正義を促進させ、住民全員に現代化の成果を共有してもらう。それに向けて、まず、都市規模に応じて異なる戸籍政策を実施する。具体的に、中小都市の戸籍取得の自由化を推進する一方で、人口500万人以上の都市については人口規模を厳格にコントロールする。また、2020年までに1億人の農村からの移住者を市民化させる。さらに、住民カード制度を実施し、居住年数などの条件に基づき、公共サービスの提供をすべての住民が享受できるようにする。 ② 都市化、農業現代化、情報化、工業化の歩調の取れた発展、都市と農村の一体化   情報化と工業化の高度な融合、工業化と都市化の好循環、都市化と農業の現代化の調和を推進する。都市の発展、産業基盤の強化、流入人口の雇用の拡大、人口集中の歩調を合わせる。都市と農村の土地などの要素の平等交換と公共財とサービスの均等化を推し進め、工業発展と農業発展の好循環を定着させ、都市と農村が一体化した工業と農業、都市と農村の新しい関係を構築する。 ③ 配置の最適化、集約化、効率化   資源環境の負荷能力を基に、科学的で合理的な都市と農村の全体配置を行う。総合的な交通ネットワークと情報ネットワークに基づき、都市群の計画と建設を行う。また、都市建設用地の規模を厳しく制限する一方で、一部の農地を「永久農地」として指定し、最低耕地面積の維持に努める。さらに、都市開発の対象範囲を合理的にコントロールし、都市内部の用途別土地構造を最適化し、国土の有効的な利用を促進する。   国土のバランスの取れた発展のために、成渝(成都と重慶)、中原(鄭州周辺)、長江中流、ハルビンと長春などの中西部の資源と環境に恵まれている地域で新しい都市群を育てる。また、「ランドブリッジ(ユーラシア大陸横断鉄道)ルート」、「長江沿いルート」を2本の横軸に、「沿海ルート」、「京哈(北京-ハルビン)と京広(北京-広州)ルート」、「包昆(包頭-昆明)ルート」を3本の縦軸にし、軸線上の都市群を発展の中心とする「両横三縦」の都市化戦略を実施する。さらに、特大都市への経済機能などの過度な集中を改めるため、中小都市の経済力、人口吸収能力を向上させる。 ④ エコ文明、グリーン・低炭素社会の推進   エコ文明という理念を都市化プロセスの全分野に組み入れ、グリーン型発展、循環型発展、低炭素型発展に力を入れる。水、土地、エネルギー等の資源の節約と有効利用、生態系の回復と環境対策を強化し、グリーンシティとスマートシティ作りに力を入れる。グリーン・低炭素の生産と生活様式と都市建設運営管理モデルを推進し、環境破壊を最小限に抑える。 ⑤ 文化の伝承、都市個性の発揮   都市それぞれの自然・歴史・文化の特徴を活かし、差別化、多様化を目指す。歴史の記憶をとどめ、文化を伝承し、地域的特徴と民族的特色を持つ美しい都市作りに励み、現実に適い、各々特色のある都市化発展モデルを形成させる。   これらの方針に基づき、「計画」は2020年までに、常住人口に基づく都市化率が60%前後、戸籍人口に基づく都市化率が45%前後に達し、両者の差が2ポイント前後縮小することを目標としている。 ● 期待される都市化の効果   都市化は、内需拡大、産業構造の高度化、三農問題の解決、地域間の格差の縮小、社会の進歩に寄与することが期待されている。   「計画」によれば、都市化は、内需拡大を通じて経済の持続的発展に貢献する。都市化が進めば、より多くの農民は都市部で就職するようになり、収入が増える上、農民が都市部の住民として公共サービスを享受するようになる。その結果、消費が拡大し、都市部のインフラ設備、公共サービス施設、住宅などに対する巨大な需要が発生する。   また、都市化は、産業構造の転換と高度化を加速させる重要なきっかけとなる。産業構造の転換と高度化は経済発展方式の転換のカギとなる。なかでも、サービス業のさらなる発展が欠かせない。まず、都市化によって、人口が集中し、ライフスタイルに変化が生じ、生活水準が向上し、生活関連サービスの需要拡大につながる。次に、生産要素の適正配置、サービス業の発展、社会分業の細分化は、生産性サービス需要の拡大をもたらす。そして、都市化は、知識や技術革新の伝播を促進し、伝統産業の高度化と新興産業の発展の原動力となる。   さらに、都市化は、三農(農業、農村、農民)問題を解決する重要な手段となる。中国の農村では、膨大な人口を抱えるにもかかわらず、農業用水や土地が不足している。都市と農村の二重構造の下では、農地の大規模化は実現しにくく、伝統的生産方式を変えることができない。これこそ「三農」問題の根本である。都市化が進めば、農村人口が都市部に移住し、農民の一人当たりの資源占有量が増える。このことは、農業の大規模化と機械化、ひいては農業の現代化と農民の生活水準の向上につながる。他方、都市部における工業の発展は、農村部の発展を促進することとなる。   そして、都市化は、地域間の調和された発展を推し進める強い力となる。現在、東部地域の常住人口の都市化率が62.2%に達しているのに対し、中部は48.5%、西部は44.8%しかない。「西部大開発」と「中部台頭」戦略が進むにつれて、産業の東部沿海地域から中西部への移転が進んでいる。これをきっかけに、中西部は、都市化と工業化、ひいては経済発展が加速しており、東部との格差が縮小傾向に転じている。   最後に、都市化は、現代化の象徴である。都市化は人類の文明の進歩の産物として、生産性を高めるだけでなく、農民を豊かにし、国民全体の生活レベルを向上させる。また、都市と農村の二重構造とともに、都市内部の二重構造の矛盾を緩和させ、現代文明の成果をすべての国民に共有させることができる。これは社会の公平と正義の実現と社会リスクの軽減にもつながるという。   このように、都市化は、経済発展と調和の取れた社会を目指す中国にとって、極めて重要な戦略であり、今回の「計画」は、その実現に向けたロードマップを提示していると言える。(執筆者:関志雄 経済産業研究所 コンサルティングフェロー、野村資本市場研究所 シニアフェロー 編集担当:水野陽子)(出典:独立行政法人経済産業研究所「中国経済新論」)
中国では、改革開放が始まってから30年余りを経て、都市化が著しい成果を収めている一方で、出稼ぎ農民(農民工)と都市住民からなる二重構造が形成されるなど、多くの問題が蓄積され、露呈し始めている。
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2014-07-17 13:45