NISAで投資へのハードル下がればDCの浮上も=損保ジャパンDC証券

 「投資」に関する非課税口座であるNISA(少額投資非課税制度)が動き出したことで、もう一つの投資非課税制度であるDC(確定拠出年金)への関心が一部で高まってきている。DCへの拠出限度額が2014年10月からは毎月5.5万円(年額66万円、他に企業年金がない場合)に引き上げられるなど、制度の見直しも進んでいる。DC市場の展望について、関連事業を展開する金融機関等にシリーズでインタビューする。  損保ジャパンDC証券の常務取締役、河原英樹氏は、「NISAそのものがDCへの関心を高めているという動きは実感できないが、NISAによって“投資”がより身近な存在になってきているという効果は大きい」と語り、今後のDC市場の一段の成長に期待を寄せている。(写真は、損保ジャパンDC証券常務の河原英樹氏。サーチナ撮影) ――DCの平均的な拠出額、また、運用の実態は?  厚生労働省の発表では、2014年3月末現在で企業型DCの加入者数は464万人、個人型DCの加入者数は18万人です。当社は2014年6月末現在、企業型DCで659規約の受託を行い、個人型も合わせると約21万人の方々が加入されている実績がありますが、その加入者の方々の平均拠出月額は約1万4000円です。  2012年1月に始まったマッチング拠出は、当社が受託している規約のうち既に33%で導入されています。厚労省の調査では、企業型DC全体でのマッチング拠出導入割合は20.8%ですから、当社の受託企業では、マッチング拠出の導入は進んでいるといえます。ただ、実際にマッチング拠出を実行している方は、実施可能なプランに加入している加入者の19%にとどまっています。マッチングで拠出している金額の平均は約8500円です。  DCの運用商品については、全体の6割を元本確保型商品(預金や保険)が占め、投信での運用は4割であるというのが、厚労省の2013年3月末調査の結果であり、当社が受託している規約においてもほぼ同じ状況です。  DCの運用成績は、リーマンショック後にDC制度をスタートした企業では総じて運用成績が良いところが目立ちます。半面で、2001年の制度導入後の早い時期にスタートした企業では、リーマンショックによるマイナスを取り戻してプラスに転じてきた状況となっているところが多いようです。 ――2014年1月にNISAが開始され、同様に投資非課税制度であるDCへの関心が高まるのではないかという期待があります。実際の動きはどうですか?  NISA開始の影響がDCへの関心に直接結びついていると実感するような状況ではありません。ただ、日本でアベノミクスが言われ始めた2012年12月頃から日本株価が徐々に値上がりする過程では、多くのご加入者がご自身のDCの資産残高を確認したいという動きにつながり、コールセンターへの問合せや加入者サイトへのアクセスが増加しました。株式市場が活発になると、それがDCへの関心を呼び起こすということにつながっています。NISAによって資産運用に関する関心が高まると、それがDCへの関心につながっていくということも期待できます。  一方で、企業側の動きとしては、2014年4月から今後5年間で厚生年金基金を解散、代行返上および存続するかを検討する動きが始まっています。厚生年金基金解散後の受け皿としてDCを採用する企業も少なくないと考えられます。適格退職年金が2012年3月末に廃止されることを受けて、新たな制度の一つとしてDCの創設が進んできたように、今回の厚生年金基金の見直しがDC拡大を後押しする力になると思います。 ――損保ジャパンDC証券の取り組みは?  DCについて一般的には、制度設計のサポートや運用商品選定、情報提供などの運用関連業務と、口座の状況や運用状況などのデータ管理を行う記録関連(レコードキーピング)業務は別々の会社が行っていますが、当社ではそれらを一体的に行うバンドルサービスを展開し、事業主様や加入者様にとって低コストで利便性の高い業務を受託しています。2013年3月末現在における企業型DCの規約承認件数4247件のうち、当社の受託件数は631件で、当社の推定では業界トップの受託実績となっています。  損保ジャパン、日本興亜損保を擁するNKSJグループの一員として、損保会社の取引先企業、また、外資系企業から多く業務受託しています。コールセンターも含めて英語サービスに対応しており、外資系企業からの業務受託件数が多いことも特長です。  この7月から、厚生年金基金の後継としての新商品「未来のそなえ」を開発し、発売を開始しています。シンプルで、かつ、申し込みから約3カ月で制度発足ができる簡便な総合型DCプランです。月掛け金を定額とし、運用商品は伝統4資産にパッシブファンドも含めたラインナップとしたほか、マッチング拠出にも対応するなど、簡単に導入できるプランながら、従業員の方々の満足度は高い商品といえます。 ――今後のDC普及のポイントは?  DCが退職後の資産形成の手段として、加入者が利用しやすい制度に変わっていく必要が依然としてあると指摘されています。たとえば、拠出限度額について2014年10月から、他に企業年金制度がない場合は月額5.5万円まで拡大される(従来は5.1万円)ことになっていますが、さらに引き上げが期待されます。  この拠出限度額については、従業員が自らの意思で上乗せができるマッチング拠出の限度額についても拡大の必要があるでしょう。やはり、運用している資金が大きくなってくれば、誰もが無関心でいられなくなると思います。  また、DCで積み立てている資金について、60歳以降でないと引き出せない仕組みになっているものを、途中で引き出せるようにしてほしいという要望は、加入者から強く聞かれることです。途中解約ができるようにすると、老後資金としてのDCの意義が薄くなってしまうとの反対意見もあるものの、イギリスなどでは途中引出について柔軟に考える議論が進んでいると聞きます。  さらに、直近では、厚労省が、確定給付企業年金と確定拠出企業年金を組み合わせたハイブリッド型の新制度を検討するとの報道がありました。いろいろな意見がでてくるところでしょうが、このような議論が活発になることでも、DCへの関心は高まります。  DCについては制度がスタートした2001年当時には、「20-40兆円市場」という予測もあったのですが、実際には2014年3月末で約8.5兆円程度にとどまっています。まだまだ地道な普及活動が不可欠だと感じています。(取材・編集担当:徳永浩)
損保ジャパンDC証券の常務取締役、河原英樹氏は、「NISAによって“投資”がより身近な存在になってきているという効果は大きい」と語り、今後のDC市場の一段の成長に期待を寄せている。(写真は、損保ジャパンDC証券常務の河原英樹氏。サーチナ撮影)
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2014-08-01 11:00