主要国の金融政策が新展開待ちの中、英ポンドに変化の兆し=外為どっとコム総研

 夏枯れ相場となる時期を迎えたが、市場にはウクライナ問題やパレスチナ紛争など、いつどのような影響がでてくるか予測できない状況を抱えている。外為どっとコム総研の調査部研究員、石川久美子氏(写真)は、当面の外為市場について「主要国の金融政策について、新しい展開待ちの状況となり、大きな方向感が出にくい環境になっている」と見通す。その中で、金融政策委員会のメンバーが入れ替わった英国に注目している。「8月は英ポンドの動きが目立つ展開が期待できる」という。(写真は、サーチナ撮影) ――ウクライナ問題、パレスチナでの戦闘など、このところ地政学リスクが気にされるような局面が続いています。戦争や紛争によるリスクへの対処の仕方は?  紛争は世界中で、いつでも勃発しています。ただ、金融市場においては、突然、紛争を材料視することがあっても、ある瞬間から全く材料視しなくなることが頻繁に見られます。材料視されすらされない地政学的要因も少なくありません。  地域紛争が外為市場に影響を与えるのかどうかを見定める上で重要なのは、その紛争に先進国が関わっているかどうか、そして、その紛争が世界経済に影響を与えるかどうかということです。たとえば、パレスチナ問題に米国が軍事介入すれば、市場は大きく動揺するでしょう。ウクライナ問題についてもユーロ圏各国や米国とロシアとの間で、対立が激しくなってくれば、市場はもっと大きく反応すると思います。その影響の広がりについては、注意深く見ていく必要があります。 ――地政学リスクが、ドル/円やクロス円の価格変動に、どのような影響を与えますか?  基本的には、リスクオン(投資でリスクが取れるような状態:地政学リスクが低下している状況)で円売り、反対にリスクオフ(地政学リスクが高まった状態)で円買いという流れは続いていると考えられます。ただし、地政学リスクが高まると、円以外の通貨に対して米ドルも買われる傾向が強くなるため、ドル/円の値動きは限定的になるでしょう。  その点では、地政学リスクが高まる環境では、クロス円では円がより買われることになると思います。たとえば、ウクライナ問題でEUとロシアの関係がこじれてしまうようなことになれば、ユーロ/円ではユーロ安・円高が比較的大きめに進むことになります。 ――当面のドル/円の予想レンジは?  ドル/円に関しては、地政学リスクよりも、日米両国の金融政策のスタンスが材料になる状態に代わりはありません。ただし、日本の金融政策は、日銀による追加金融緩和への期待がどんどん後ずれしている状況です。早ければ10月にもという見方がありますが、大勢では来年以降、あるいは、追加緩和はないのではないかともいわれています。日本の経済指標が大きく崩れることになれば、追加緩和期待も高まるのでしょうが、7-9月のGDPの発表がある11月までは大きな方向感が出にくいかもしれません。  一方、米国は10月までに量的金融緩和を縮小する見通しが立っており、その後の話ができるのは早くても9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)の頃と考えられます。ただし、その後も11月に中間選挙を控えています。中間選挙前に早期利上げを示唆し、株価が腰折れするのを避けようとする圧力が政府サイドから掛かれば、利上げを急ぐ必要があるほどインフレ懸念が強くない限り、FRBも利上げ時期の示唆を急ごうとはしないでしょう。つまり、年内は日米ともに、金融当局から明確なメッセージが出ず、ドル/円の方向感も出にくい可能性があると見ています。  当面のレンジは、下値は1ドル=100円半ば。上値は、1ドル=103円程度という比較的狭いレンジでもみ合うとみています。 ――ユーロ/円の予想は?  ユーロについては、ポルトガルの金融不安は一服感が出ていますが、ウクライナ問題が長引いており、景気の下ブレ懸念は根強いです。物価の上昇も弱いことから、追加金融緩和が話題になりやすい環境といえます。今後の要人発言などユーロ主体で材料が出てくるでしょう。当面の予想レンジは、1ユーロ=135円-140円でみています。 ――ニュージーランドドル(NZドル)が、大きく動きました。今後の展望は?  NZ中央銀行は今年のうちに1.25%の利上げを実施すると宣言し、7月までに4回にわたって合計1%の利上げを実施し、その中でNZドルは大幅に上昇したのですが、7月24日の利上げをもって「利上げ効果を見極めたい」という発言があったため、利上げの停止を嫌気したNZドル売りが出ました。  その後、ニュージーランドの乳製品価格が下落したという報道もあった点も重石となっており、NZドルは一段安になっています。  ニュージーランドの政策決定会合は、年内に9月、10月、12月とあと3回予定されていますが、現在のところ、9月の利上げは見送られる公算が大きく、中には、年内の利上げはなくなったという見方もあります。今後、地域紛争の思わぬ拡大など、世界的にリスクオフの機運が高まると、NZドルが一段安になる可能性もあります。  ちょうど、NZドル/円は、チャートの200日移動平均線が86円台前半にあります。この価格を割り込むことがあれば、3月安値の1NZドル=84円台をめざすことが考えられます。さらに下には2月安値の81円台があるのですが、さすがに利上げ開始のスタート以前まで下落するほどのことはないと思います。反対に、中国経済の好調や世界的な株価の上昇などの好材料が出てくれば、1NZドル=89円程度の上値が期待できます。 ――その他、注目している通貨ペアは?  8月は英ポンドに動きが出てくるタイミングだと思います。英国経済の好調から、利上げ観測が強くありながら、6月下旬以降は早期利上げ期待が落ち着き、ポンドは軟化しています。  ただ、カーニー英中銀総裁は利上げに関する発言の印象が突然変わる様子が見受けられるので、今後も急にタカ派的な発言をし出す可能性は十分にあります。また、8月に新副総裁が就任することによって、英中銀の金融政策委員会のメンバーさらに変化します。6月、7月に2人の新任委員が就任していますから、金融政策決定時の投票バランスががらりと変化こともあり得ます。  新任の委員が、金融政策に対してタカ派かハト派か、今のところ明確ではありませんが、現在2015年1月以降と見られている利上げタイミングが前倒しになるかのようなメッセージが出てくれば、1ポンド=176円をめざしたポンド高が期待されます。  反対に、利上げタイミングが来年以降といったような見通しが強まれば、1ポンド=170円程度まで失望売りで下げる可能性もあります。英国発の要人発言に注目していきたいところです。(編集担当:徳永浩)
外為どっとコム総研の調査部研究員、石川久美子氏(写真)は、当面の外為市場について「大きな方向感が出にくい環境」と見通す。その中で、金融政策委員会のメンバーが入れ替わった英国に注目している。「8月は英ポンドの動きが目立つ展開が期待できる」という。(写真はサーチナ撮影)
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2014-08-04 12:30