波乱多い8月相場、ドル円は急変動に注意=外為オンライン・佐藤氏

米国第2四半期(4-6月期)のGDPが市場予想を大きく上回る4.0%になったことで、ドル円の水準が一気に円安方向に振れた。このまま円安方向に振れて行くのか、あるいは夏場の円高説が現実のものとなるのか。毎年、波乱の相場となることが多い8月相場の行方を外為オンライン・シニアアナリストの佐藤正和氏(写真)に聞いた。(写真は、サーチナ撮影)
――ここにきて一気に円安が進みましたが、この背景には何があるのでしょうか?
やはり米国経済の景気指標がいずれも順調であることがあげられます。4-6月期の米国GDPは、市場予想の3.2%を大きく上回る4.0%でした。消費者信頼感指数も90.9と2007年10月以来の高水準で、リーマン・ショックより前の「パリバ・ショック」以前の水準に戻りました。
景気指標の数値が高かったことで、再び利上げが近いという観測が市場に広がり、ドルが一気に買われたわけですが、逆に株式市場や債券市場は下落。株安、債券安、ドル高という現象が起きました。
これまで市場価格のボラティリティ(変動幅)が小さくマーケットのエネルギーが溜まっている状態でしたから、何かのきっかけがあれば大きく動くとは予想していたのですが、1ドル=103円台にまで振れるとは予想外でした。ただ、今回の特徴はドル全面高というより、ドル円に限ってドル高円安に大きく動いたこと。やはりドル円の市場エネルギーがかなり蓄積されていたとみるべきかもしれません。
――GDP発表後のFOMCの声明文が注目されていますが、どのように受けとめたらいいでしょうか?
結論から言うと、インフレ率の見方がやや「タカ派」に傾いてきたという印象です。「インフレ率が2%を下回り続ける可能性は幾分低下した」という表現になっており、ややインフレ率の上昇を懸念する表現に変わっています。
その反面で、前回の「失業率はなお高い水準にある」という文言が削除されたものの、全体として労働力の活用が極端に低いとしており、改善の余地があるという「ハト派」的な表現も残っているのが印象的です。
債券購入プログラム、いわゆるテーパリング(量的緩和縮小)の動きも、市場の予想通り100億ドル減って250億ドルとなり順調に進んでいます。世界的に「緩和マネー」が過剰流動性を引き起こしており、行き場を失って新しい投資先を模索しているイメージでしょうか。ギリシャ国債などのジャンク債が人気になっていることでも分かります。
――8月のドル円の予想レンジと注目イベントは?
例によって米国の雇用統計の発表がひとつのカギになります。8月1日に発表された7月の非農業部門の雇用者数は23万1000人の予想に対して20万9000人。市場予想を下回りましたが、FRBの目標とする「20万人」は上回りました。ぎりぎり「合格点」だったと言えましょう。
一方の日本経済ですが、日銀のインフレに対する表現方法がやや変化しており、黒田日銀総裁も「(当面の物価見通しは)1%近傍に縮小する見込み」といった表現に変わっています。1%は割り込まないという決意を改めて示したものと言えるのではないでしょうか。ただ、最初に指摘したようにドル円の市場エネルギーは蓄積されており、3か月ごとのボラティリティも一時は5.1%だったのが、直近では6.8%に回復しており、8月はやや大きな変動幅に注意する必要があるかもしれません。
8月のドル円のレンジとしては、1ドル=101円-105円とみていますが、米国株がピーク時からすでに700ドルも下落しており注意が必要です。ただ、最近は米国の株式が下落しても日本株が堅調だったり、日本株が上がったからと言って円安にならないなど、市場の連動性に変化がみられます。
ちなみに、8月の注目イベントとしては雇用統計以外では、21日のジャクソンホールでのイエレンFRB議長の講演があります。年内利上げなどに言及する可能性がないとも言えません。
――ユーロ売りドル買いのトレンドが続いていますが、当面の見通しは?
ユーロが売られる背景には、金利の低下懸念が依然としてあること、ウクライナ情勢の悪化によるロシア制裁の影響などがあります。
先物市場でのユーロのショートが積み上がっており、ピーク時には8万8000枚程度にまで上昇しています。ロングポジションへの切り替えでユーロが買い戻されるケースも考えられますが、大きなトレンドとしては、ユーロ売りの傾向が続いている状態です。
さらに、英国経済が活況で英国ポンドが買われており、その影響もユーロ相場に出ているのかもしれません。そういう意味も含めて、8月のユーロ相場のレンジを考えると、「ユーロ円」では1ユーロ=135円-140円、「ユーロドル」では1ユーロ=1.32ドル-1.36ドルとみています。
――豪ドル、ニュージーランドドルはどうでしょうか?
豪ドルは、「利上げ」なのか「利下げ」なのかが定まっていない状況です。資源価格の上昇などで景気が上向いている面もあれば、厳しい状況が続く中国の景気後退リスクといった、相反する要因が交錯しているためでしょう。最近は中国経済が落ち着いてきたので、利下げ傾向は少し弱まりつつあるのかもしれませんが、いまだ不透明といえそうです。
そう考えると、豪ドル円の8月のレンジは1豪ドル=94円-97円というところでしょうか。ボラティリティが3円の幅しかないこう着状態が続くと見ています。
ニュージーランドドルは、4回目の利上げが行われましたが、市場に完全に読まれていたようです。利上げが発表されたとたんに、達成感から大きく下落してしまいました。乳製品価格の下落が原因との見方もありますが、為替市場の投資家のマインドの影響があったのかもしれません。
――8月のトレードの注意点、ポイントは何でしょうか?
8月は、毎年というわけではありませんが、ボラティリティの大きな波乱含みのマーケットになる傾向があります。バカンスなどで市場参加者が少なく、仕掛けしやすい環境になるためです。“夏休み”に入るときにはポジションをいったんクローズするなど、きちんと管理することが大切です。
最近の傾向として、大半の投資家がドル円に偏っており、それも円安方向を見越しての円売りの投資家が多い。現在の相場は、他の投資家の一歩先を行くような気持ちで向かっていかないとなかなか勝てません。ポジションを軽くして、8月の乱高下にチャレンジしてみるのもいいかもしれません。(取材・文責:サーチナ・メディア編集部)
毎年、波乱の相場となることが多い8月相場の行方を外為オンライン・シニアアナリストの佐藤正和氏(写真)に聞いた。(写真は、サーチナ撮影)
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2014-08-04 12:45